30話

「幸也くん! 次はたこ焼き買おうよ! その後はりんご飴ね!」

「言わんこっちゃあないでおい」


 人混みでごった返す屋台通りに到着するや否や、早速食べ物を物色し始める奈留にたじたじだ。

 

 いや、正直今までの付き合いでなんとなくこうなるような気はしてたんだけどね。

 

「奈留さんや、実質夕食も兼ねているとはいえ、初っ端から飛ばし過ぎはいけませんよ」

「そんなこと言ってたらコンプリートは夢のまた夢だよ!」

「夢は夢で終わるから美しいんだよ」


 奈留に感化されたのかちょっと詩的になってしまった。全然意味わかんないけど。

 

「もう! 幸也くんお祭りなのにテンション低すぎるよ!」

「奈留が元気すぎるんだよ、その調子だと花火までにバテちゃうぞ」


 冗談でもなんでもなく残り1時間近くもこんなにはしゃいでたら疲れてしまいそうだ。

 

 しかし俺なんかと一緒だというのにこんなに楽しそうなのは意外だ、よっぽど好きなんだな、お祭り。

 

まぁいざとなれば無理にでも休ませれば良いかと思い、ある程度奈留の好きにさせてあげようと思っていた、そのときだった。


「おや、これは遠山殿と佐伯嬢ではござらんか」


 たこ焼きの列に並んでいた俺たちに背中から声が掛かる、こんな口調で話す男は1人しかいない。

 

「ああ、服部君も来てたんだ――って、なんで佐藤も一緒に!?」

「失礼ねぇ、ウチが居るの、そんなにびっくりするようなこと? ……というか、あんた本当に遠山よね?」


 振り返った俺は衝撃を受けた、浴衣を着た服部君の隣にギャルの一味である佐藤が居たのだ。

 

 一体何がどうなっているのかと思ったが、その答えはすぐに服部君の口から伝えられることになった。

 

「ああ、そういえば言ってなかったでござるね、拙者達付き合うことになったのでござるよ」

「はぁ!? え、いつからそんなことに!?」

「つい最近でござるよ~、遠山殿と佐伯嬢に感化され、玉砕覚悟で告白をしたらおーけーを貰えたでござるよ」

「そうなんだ~、ちょっと意外だけど、2人ともお似合いだと思うよ!」


 奈留が2人を祝福しているが、俺はそれどころではなかった。

 

 まさか服部君が敵の手に落ちてしまうなんて! 服部君、君だけは裏切らないと思っていたのに! モテない男の契りは何処へ行ってしまったんだ!

 

 いや待て、待つんだ俺、服部君が裏切るなんてことあるわけないじゃないか、これにはきっと理由があるんだ、そうに違いない。

 

 ――駄目だ! どう考えても最悪の想像しかできない! あぁ、ギャル達は俺から何もかも奪って行ってしまう……

 

 これで最後には奈留まで居なくなるんだ、ははっ、もう空っぽだ。

 

「なんか遠山君、さっきから黙り込んじゃったけど、どうかしたの?」

「幸也くんたまにこうなるんだよねぇ……でも少しすれば復活するから大丈夫だよ」

「遠山殿はもしやまだいらぬ心配に身をやつしているでござるか……」

「? 心配って何のこと?」

「いや、拙者の口からはまだなんとも……」

「遠山くん、何か悩みがあるなら奈留に相談すればいいのに」

「それが残念なことに、佐伯嬢にだけは相談できぬ内容でござる故……」

「「?」」


 3人が何やら談笑している間に打開策を講じているが、何も思いつかない、もうおうちかえりたい……

 

 しかしそれは許されない、こうして服部君を人質に取りつつ、俺たちの様子を確認しに来たという事は、俺の奈留への依存度を確認しに来たという証拠だ。

 

 ここで俺が不審な態度を取り、俺が罰ゲームのことを勘づいているとバレてしまえば、奈留の失態だと思われてしまう事必至。

 

 そうなれば、きっと奈留は俺の想像もつかないような辱めを受けてしまうに違いないのだ!

 

 もういっその事、奈留を連れて何処か遠くへ逃げてしまいたい……

 

「それでは拙者達はこれにて御免! 2人共仲良くするでござるよ~」

「言われなくても、その、ラブラブ? だもん! さっちゃんもまた学校でね!」

「もしかしたら後でまた会うかも知れないけどね、それじゃあね」


 俺が我に返ると2人が丁度去って行ってしまった。

 

 やってしまった、考え事に没頭しすぎて別れの挨拶さえ出来なかった。

 

 もしかしたらこれで俺が感づいていることがバレてしまったかもしれない、そうなれば奈留になんと謝罪すればいいのか。

 

 それに引き換え奈留のポーカーフェイスは素晴らしい、どうして一切動じないのだろうか。

 

 俺なんか、事あるごとに動揺し、狼狽してしまうというのに。

 

 奈留も顔には出さないが「もう少し自然体に出来ないのか……」くらいは思われていそうだ。

 

 最初から最底辺の評価なのはわかっていたが、この罰ゲームで限界突破してしまったのは間違いないだろう。

 

「……幸也くん、もしかして、私と一緒に居るの、嫌?」

「っ! ど、どうしてそんなこと言うんだ?」

「だって、私と一緒に居る時、ボーってしてること多いし、今日も無理やり付き合わせちゃったのかなって」

「そ、そんなわけないだろ! 俺は奈留と一緒ならそれで――」


 何を熱くなっているんだ俺は。

 

 こんなこと言ったって、奈留を困らせるだけだってわかってるのに。

 

「そ、そう言ってもらえると嬉しいけど――でも幸也くん、自分から何かしたいとかあんまり言わないから、心配になっちゃって」


 ほら、やはり、遠回しに「もっと彼氏っぽいことしてバレないようにしろ」という警告を頂いてしまった。

 

「……それじゃあ、俺からのお願い、1つ良いかな?」

「うん! なんでも言って!」

「たこ焼き、俺たちの番になったから、種類を決めてもらっても良い?」

「ああ! すっかり忘れてた! とりあえず明太子チーズと、あと――」

「こらこらそんなに食べらんないだろ、1つだけにしなさい」

「幸也くんが段々お母さんみたいになってきて悲しい……」


 ぐずる奈留に1種類に決めさせると、ゆっくりする間もなく手を引かれ、次の屋台を目指すことになったのであった――

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