24話

 お財布ポイントを生贄に捧げ、ヒーりんを召喚することには成功したが、冷静になるとちょっぴり死にたくなった。

 

 流石に服部君の爆死に比べたら微々たるものだが、次のお小遣い支給日までは節制を余儀なくされるだろう。

 

 無理やり気を取り直して、気が狂ったように100円玉を投下していた俺を必死に止めようとしていた女神にモンスターをプレゼントだ。

 

「ほら、ヒーりんだよ、お食べ……」

「食べないよ!? というか流石に貰えないよ、だって幸也くん両替に行った回数――」

「数えてはいけない、いいね?」


 俺も今その現実に目を向ける勇気がないんだ、すまないな奈留。

 

「まぁうちに持って帰っても仕方ないしな、だから奈留に貰ってほしいんだ」

「でもでもでも、いくら何でも私だけが施しを受けるわけには……そうだ! 今回費やした分のお金を私が――」

「それは男のプライドが許さないのでダメです」

「最近幸也くんが私に冷たい気がする……」


 というかいくら費やしたのか、せめてデートが終わるまでは知りたくないんだ。頼むから黙って受け取ってくれ。

 

 ああもう自分でデートって言っちゃったよ、もうデートでいいや、諦観。

 

 それからもしばし押し問答を繰り広げていたが、ついに折れた奈留がヒーりんを受け取ってくれる。

 

「それじゃ、その、お言葉に甘えて大事にするね、えへへ」

「おう、家で待ってる3人の仲間に加えてやってくれ」


 ヒーりんを両手で抱きしめる奈留を見れただけでも散財した甲斐があったというものだ。

 

 これで持っているのがキモ可愛いクリーチャーじゃなくて、もっとファンシーなぬいぐるみなら最高だったが、贅沢は言うまい。

 

「さてと、そろそろ良い時間だし出ようか、奈留、門限は大丈夫なのか?」

「今日はちょっと遅くなっても大丈夫! お夕飯も何処かで食べて来ちゃうって言っておいたし」


 スマホで時刻を確認すればもうじき17時っていうところだった、気づいていなかったが、ヒーりんとのバトルに相当時間を喰われたらしい。とても悔しい。

 

 ヒーりん格納用の袋を店員に貰うと俺たちはゲームセンターを後にした、問題はこの後何処で食事をするかということだ。

 

 なんとなく空気で一緒する感じになってしまっているし、ここで解散はなんだか味気ない。

 

 嘘だ、俺が奈留と一緒に居たいだけだ。

 

「奈留は何か食べたいものあるか? 和食、洋食、中華だとどれが良い?」

「それなんだけど、私、幸也くんの作ったものが食べたいなぁ、なんて」

「へ? 俺の? それは構わないけど……」


 理由は分からないが俺の料理にトラウマを植え付けられてるとばかり思っていたんだが、どういう風の吹き回しだ。

 

 これも何かのシナリオなのか、わからん、わからんが、正直断る理由はない、料理好きだし。

 

「奈留お嬢様の頼みとあれば、この料理長、全身全霊で腕を振るわせていただきますぞ」

「そ、そこまで気合を入れなくても大丈夫だよ……」


 そうと決まれば目指すはスーパーマーケット、流石に冷蔵庫の中の有り合わせで作るのは忍びないしな。

 

 明菜に「やっぱり夕飯は家で作る」と連絡を入れ、俺たちは目的地に向かって歩みを進めた――

 

 

 

 

 

 スーパーに着いた俺達だが、とても大事なことを忘れていた。

 

「そういえば結局奈留は何が食べたいんだ? 出来る限り要望には応えるつもりだけど」

「う~ん、メニューは幸也シェフに任せるけど、出来れば洋食系が良い、です」


 洋食系、となるとオムライス、スパゲティ、ハンバーグあたりが鉄板だが、どうもパンチが弱い気がする。

 

 あ、そうだ。

 

「なぁ、奈留ってあれ以来ビーフシチュー食べた?」

「食べてないよ! 家だとビーフシチューは月に1回出るか出ないかの幻のメニューだからね!」


 そんなにレアな存在だったのか、俺は結構運が良かったんだな。

 

 だけどそれならちょうどいいか。

 

「じゃあ今日はビーフシチュー作ってみようか、初めてだから志乃さんには敵わないと思うけど」

「なんと! 月に2回もビーフシチューに出会えるなんて、幸也くんと付き合ってほんとによかったよ!」


 俺の存在価値はビーフシチューに負けてしまうのか、まぁ当然と言えば当然だな、でも奈留が喜んでくれるならOKです。

 

 方向性が決まったところで買い物かごに食材を放り込んでいく、人参、玉葱、ブロッコリー、ブロックの牛肉、その他調味料のみなさん。

 

 外で食べると結構お高いイメージがあるが、自炊する分には比較的安上がりでとても助かる。

 

 そんなわけでお会計を済ませた俺達だが、今回ばかりは引き下がってくれない奈留に負けて折半という形になった。

 

 今まで俺が勝手におごっていただけだが、向こうからしたら居心地が悪かったのかもしれない。

 

 男の尊厳を守ることばかりに必死になっていた自分を恥じいる。

 

 スーパーマーケットを後にした俺たちは1つの買い物袋を2人で持ちながら、俺たちの家を目指した――

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