23話

 ミルクティーを飲み終えた俺達だが、さて解散かという時に奈留からお声が掛かった。

 

「幸也くん、この後も時間は大丈夫?」

「え、ああ、別に予定はないけど――」


 そもそも今日奈留に何処へ連れていかれるかわからなかったため、夕飯も外で食べてくると明菜に言って出てきたくらいだ。

 

 なので時間はたっぷりある。まぁそうでなくてもやる事なんて何もないのだが、無趣味なぼっちは気楽ですよ。

 

「私の要望は聞いてもらったわけだから、次は幸也くんの行きたいところへ着いて行きたいなぁ、なんて」

「俺の、行きたいところか」


 家。即答したかった。

 

 しかしそういう意味ではないだろう、これは遠回しに遊びに連れていけと言ってるわけで。

 

 これも恐らくギャルたちのシナリオに含まれているのだろうから、無視するわけにもいかない。

 

 もしここで解散となれば、1人になった奈留がギャル達に何をされるかわからないのだから。

 

 彼女を守るためにも、どこでもいいから遊び場に連れ出さねばなるまい。

 

「もしかして、私が一緒に居るの邪魔、かな?」

「奈留が一緒に居てくれればそれだけで楽しいんだから、そんなこと言わないで」

「そ、そこまで想ってくれてるなんて……」


 何か良いことでも思い出したのか、にへらと笑う奈留を横目に何処へ行くか悩み続ける。

 

 正直に言うと、俺の遊びのレパートリーは少ない、何せ友達がインドア派の服部君しかいないからな。

 

 大体家でゲームでもするか、新しい料理の練習くらいのものだ。

 

 相当に枯れてる自覚はあるが、自分では充実した毎日を送っていると思ってたのだ。

 

 そもそも俺たちの年代って何して遊ぶのだろうか、一瞬服部君の知恵を借りようと思ったが、第六感がそれだけはやめておけと告げている。

 

 確信はないが、何故か正解な気がする。

 

「じゃあ、ええと、とりあえず――」


 あまり考え込んでいると悪いと思った俺は、結局無難な選択肢に逃げることを決めた――

 

 

 

 

 

 

「ここが、ゲームセンター! なんか思ってたよりずっと平和そうだね!」


 目的地に着くなり奈留が感動したように声を上げた、戦場か何かと勘違いしていたのかな。

 

「もしかして初めてだったりした?」

「うん! 興味はあったけどマ――お母さんに不良がたくさんいるからダメって禁止されてたの」


 流石にそんなに危険な場所じゃないんだけどな。まぁでも志乃さん、奈留の事を相当大事にしてそうだったからな。

 

 実際女の子が1人で来るのもどうかと思うし。いや、それにしたってちょっと過保護すぎるかもしれない。

 

「というか、志乃さんにダメ出しされてるならやめておいた方が良かったかな」

「お母さん、幸也くんと一緒なら何処に行っても良いって言ってたから大丈夫だよ!」

「ええ……俺、志乃さんと会ったのあれっきりだし、そんなに信頼される理由がわからないんだけど……」

「昨日試験の結果伝えて、幸也くんに勉強教えてもらったおかげって言ったら、泣きながら幸也くんを拝んでたよ」


 志乃さん、思考が単純過ぎるよ。しかも俺のおかげじゃなくて奈留が頑張った結果だし。

 

「とりあえず入ろうか、何か遊んでみたいものとかある?」

「んー、正直何があるかもよくわかんないし、幸也くんのエスコートに期待します!」


 お姫様からの重圧が激しい。

 

 まぁ適当に見て回れば何かしらあるだろう。

 

 そう思い色んなコーナーに顔を出す俺達だが、奈留のお眼鏡に叶う代物はなかなか見つからなかった。

 

 対戦系やレース、クイズゲームなんかは毛色が合わないみたいだし、プリクラでも撮ろうかと言えば「スマホで撮るのじゃダメなの」という身も蓋もない発言が飛び出してきた。確かに。

 

 これは選択を誤ったかなと思い、早々に引き上げを検討していた、その時だった。

 

「っ! ヒーりん! ヒーりんがいるよ幸也くん!」

「え、ヒーりん?」


 奈留が指さす方を見ると、UFOキャッチャーが目に入る。

 

 中のプライズは、どうやら何かのゲームのキャラクターのようだ。

 

 スライム系というのだろうか、材質はわからないが、なんとなくプニプニしてそうでキモ可愛い。

 

「奈留ってゲーム詳しかったっけ?」

「何のゲームのキャラかは分かんないけど、ヒーりんは可愛くて好きなの! 家にも3人いるよ」


 それだけ好きなのに知らないとはこれ如何に、というかその3体は何処で捕まえてきたんだ。

 

 ジーっと食い入るようにヒーりん(?)を見つめる奈留を見て、俺は財布の中身と相談をする。

 

 割には合わなそうだから普段なら絶対やらないが、たまには良いだろう。

 

「奈留、俺両替してくるから、台を陣取っておいて」

「え、もしかして幸也くん、やるの?」

「まぁね、結構得意だから任せておいて」


 嘘だけど。

 

「む、無理しなくて大丈夫だよ! なんか催促したみたいになっちゃって――」

「そうじゃなくて、俺がやりたいんだ、ヒーりんはおまけだよ」


 これも嘘だけど。

 

「まぁ任せておきなさい、可及的速やかにヒーりんを救出して見せよう、これも奈留が試験頑張ったご褒美ってことで」

「そういうことなら……幸也くん、頑張ってね!」


 さて、奈留のヒーりんを四天王にするべく、頑張るとしましょうかね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっがい!」

「ゆ、幸也くん、これ以上はダメだよ! 私のことなら大丈夫だから! 昨日の服部君みたいになっちゃうよ!」

「奈留! 男には人生で意地を張らなきゃいけない瞬間があるんだ! そしてそれは、今!!」

「かっこいいこと言ってるけど手が震えてるよ! 誰か! 誰か私の彼氏を止めてください!!」


 結局俺がヒーりんを救出するのに費やした金額は……聞かないでおいてください。

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