20話
「へぇ~、じゃあお兄ちゃん達これからデートなんだ」
「違うぞ明菜、俺たちは一緒に出掛けるだけで、決してデートなんかじゃないんだ」
「それを日本ではデートって言うんだよ、お兄ちゃん」
珍しく部活が休みだった明菜と昼食を取った後、俺たちは何をするでもなく駄弁っていた。
そもそも約束の時間まで残り30分程度しかないため、俺には何かをするという選択肢はないわけなのだが。
ちなみに母さんは同僚の方たちと1泊2日の温泉旅行に行ってしまった、これで日ごろの疲れが癒されれば幸いだ。
「そんなわけで俺はもうすぐ出ちゃうから、もし明菜も出かけるなら戸締りはちゃんと頼むぞ」
「オッケーサンバ!」
マンボはどうしたんだよ、マンボは。
「ところでお兄ちゃん、その恰好で出るの? 私からするとまだまだ地味すぎるぜ、もっと腕にスカーフ巻くとかさ」
「そんなもん持ってないがな、別に普段の格好で問題ないだろ?」
俺の今の風貌は謎英字入りTシャツにGパンという超絶無難スタイル。
髪は特に手を入れていないが、顔周りは綺麗に整えたし十分だろう。
「ええ~、これからデートだっていうのにそのやる気の無さはどうかと思うよ」
「だからデートじゃないって言ってるだろ……」
「この際名称はどうでもよくて! お兄ちゃんはそれでいいかもしれないけど、一緒に歩く奈留さんの気持ちは考えられないの?」
「む……そんなこと言ったって俺がお洒落したところでしょうがないだろ」
「か~! これだから男の子は……良い? お兄ちゃん今はかっこいいとはとても言えない状態なんだから、少しでもイケメンに近づけるように努力しないとダメだよ、お洒落は他人に対する最高の礼儀って言葉もあるんだからね」
「そうは言うけど、これ以上何をしろって言うんだ」
「髪だよ髪! とりあえずそのペタってる髪をワックスで立てて来なさい! 前に美容院で買わされた奴があるでしょ!」
やれ、命令、と明菜に洗面所に押し込まれてしまった、仕方なしに俺は
うん、自分で言うのも悲しいがあんまり似合ってない気がする、どうせ陰キャだし。しくしく。
まぁとはいえ、何もつけてない時よりはマシになった気がしないでもない。
ただこれで奈留に「陰キャが気取っててキモ……」とか言われたらその場で自害しそうだな、舌噛むぞ舌。
5分くらいでリビングに戻ると明菜が満足そうに頷いた、一応お眼鏡に叶うくらいにはセットできているようだ。
「おお! お兄ちゃんやればできる子じゃん! 全くイケメンではないけど、まぁ人前に出せるくらいにはなったね!」
「褒めるのかディスるのかどっちかにしていただけませんか妹様」
「まぁまぁ、これで奈留さんの隣歩いててもギリギリ違和感ないくらいになったんだから、自信持って!」
「はっはっは、その言い方で自信を持てる男はそういないと思うぞ」
まぁ実際奈留に恥を掻かせるのは申し訳ないしな、いやそもそも罰ゲーム初日から恥ずかしがらせてばかりなんだけど。
というか今日はなんで奈留は俺なんかと出かけようと思ったのか、俺と違って奈留は友達も結構居るし、行きたい場所があるならその子たちと一緒の方が良かったのではなかろうか。
何度考えても答えは出ないが、そんな時インターホンが家中に鳴り響いた。
「お! お姫様の到着ですよ王子様!」
「王子って柄じゃないだろ、それじゃあ行ってきます」
「いってらっしゃ~い!」
ドアホンで一応誰か確認してからでも良かったが、俺はショルダーバッグを手に取ると急いで玄関の扉を開く。
いつの日かのように、そこにはお姫様が佇んでいた。前と違うのは、見慣れない私服姿だという事だ。
「幸也くん、おはよう!」
「もうこんにちはの時間だぞ、奈留」
「あっ……いつもの癖で、えへへ」
照れている隙に奈留の格好を伺う。
白いTシャツに、確かスキニーと呼ばれるタイプのデニム、シンプルな装いだが、腰には赤と紺のシャツを巻いてアクセントを出し、そしてゆったりとしたベレー帽を被っている。
所謂ボーイッシュファッションという奴だろうか、制服姿とのギャップがあり、こう、なんというか、
ちなみに試験中は休みの日も制服で来ていたため私服姿を見るのは初めてだった。
本人は真面目に勉強するためと言っていたが、こちらからすると長くないスカートから見えてしまう太ももに、劣情を煽られていたという事実は、墓の中まで持っていく所存である。
「あれ、幸也くんが髪立ててるの珍しいね? なんかいつもと雰囲気違っていいと思う!」
「明菜に発破をかけられたからな、そういう奈留こそ良く似合ってるぞ」
「本当に!? 結構冒険したから心配だったけど、そう言ってもらえると嬉しい、です」
髪を弄りながら照れたように
いや駄目だダメだ、彼氏気取りはいけない、俺はこっそりと気を引き締め直す。
「それで今日は結局どこに行くんだ? いい加減教えてくれてもいいんじゃないか?」
「まだ内緒! とりあえず駅前の方に行こ?」
そう言うといつも通り手を繋いで歩き出す俺達、最初は手に触れることでさえおっかなびっくりだったのにな。
なんてことを不思議に思いながら、ご機嫌な奈留に引っ張られ、まだ見ぬ目的地へと向かうのであった――
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