15話
「ああそうだ、今日からテスト週間に入るから、部活動は活動中止、早く帰って勉強に励めよ~」
その日の帰りのホームルームで担任からの残酷な宣告を受け、クラス中から非難の声が飛び出した。
そういえば罰ゲームの事ばかり気にしていて、こっちのことをすっかり忘れていた。
うちの学校は普通に3期制なので中間テストがこの時期に行われる。去年は1年通して学年10位には留まることが出来たが、今年は厳しいかもしれない、主に精神的な問題で。
まぁよっぽど酷くなければ小遣いを減らされることはないだろう
そう思い、ふと隣を見ればまたもこの世の終わりのような顔で沈み込む奈留の姿があった。
おかしい、昼に比べればすこし回復していたはずなのに。
「奈留、なんか元気ないけど大丈夫――」
「幸也くん、テストなんて無くなればいいと思わない? 思うよね? ね?」
「ええ……」
この口ぶりからするに奈留は案外勉強が苦手なのかもしれない、見た目は完璧優等生って感じなのに、なんだか意外だ。
しかし考えてみればテスト結果の順位表上位に奈留の名前を見たことはなかったかもしれない、そう思った俺は奈留に何気なしに質問を重ねた。
「奈留って結構勉強できる方だと思ってたから意外だな、なんか苦手な教科でもあるのか?」
「むしろ得意科目なんてないんだけど、特に日本史がね、前回赤点ギリギリだったの……」
「どうして……」
何故暗記するだけで最低限の点が取れる科目でそうなるのか、これで数学とか言われればまだわからんでもないのだが。
「なんで昔の偉い人の名前を憶えなきゃいけないの? それを覚えるくらいなら、お昼に食べたミニオムレツのレシピを知りたいよ……」
「それは今度教えてあげるから……今は鎌倉時代に意識を割こうね」
「やだぁ! もう源頼朝が右近衛大将になったとか、征夷大将軍になったとか覚えたくないよぉ!」
「じゃあどうして文系に来たの……」
しかも苦手って言う割に結構覚えてるし。
ちなみに奈留が文系に来たのは俺が文系選択だったからだと
「っ! そうだ、幸也くん、確かすごく頭良かったよね!」
「え、いや、そんなことは――」
「そんなことあるよ! 1年生の時の最後のテスト、学年4位だったもん!」
くっ、ここでもギャル達の集合知が牙を剥いてきた、下調べがエグすぎる。
しかしこの状況は不味い、今までのパターンからして確実に一緒に勉強する流れだ……ん? 待てよ。
別に一緒に勉強するくらいなら問題ないんじゃないか? 何せお弁当の件とは違って恥ずかしいことなど何もないじゃないか、クラスメートが一緒に勉強することなんて普通なことだ、普通、だよな?
「幸也くん! 一生のお願い――」
「じゃあ図書室……は、この時期混みそうだし、ファミレスで勉強しようか」
「私まだ何も言ってないけど察してくれてありがとうございます!」
ともかく方針は決まったので2人仲良く下校することに。しかし俺は自分の見通しの甘さにすぐに直面することになった――
「ここも一杯だねぇ、やっぱり皆考えることは同じなのかなぁ……」
「ああ、流石にこれは予想外だったな」
帰り道に沿いながら適当なファミレス巡りをしていたが、どこもかしこも学生たちで溢れかえり、満員であった。
そもそも俺たちの住むプチ田舎にファミレス自体少ないのも相まってのことだが、もう少し歩けば俺の家付近に辿り着いてしまいそうだ。
駅前の方に行けばあるいはと思ったが、電車通学の多い学生が結構な数居ることを踏まえれば、結果は同じことだろう。
スタートは遅くなかったと思うが、早々に足踏みをすることになってしまった。とはいえ無いなら無いで仕方ない、今日のところは諦めてまた後日にすれば良い、そう思っていると遂に家の前まで来てしまった。
一応ここから奈留をマンションまで送る予定だったが、ここで奈留から恐ろしき提案が飛び出した。
「ねぇ、幸也くんのお家じゃダメかな?」
「はぇ?」
この子は何を言っているのでござるか? やばい、あまりの衝撃に服部君が乗り移ってしまった。
「私のお家でもいいけど、今日はマ――お母さんがいるし、もし幸也くんが嫌じゃなければだけど……」
「俺は別に構わないけど――」
奈留は嫌じゃないのか、そう思うがダメなら自分から言い出さないだろう、ということはお家で勉強コースまっしぐらだ。
というかこれは罰ゲームの範疇なのか? もしやこの状況を利用して奈留は自分の学力アップのために俺を利用しようとしているのかと邪推してしまいそうだ、でもそれならそれで、そんな
「じゃ、じゃあ、何もお構いできませんけど、どうぞ……」
「こちらこそ、何の手土産も持たずに……」
お互い腰を低くして玄関をくぐる。2人っきりで勉強は緊張するが、この数日である程度耐性が付いた俺ならきっと乗り切れる、そう信じ込みながら奈留を自室へと案内した――
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