14話

 自室に戻ると電話越しに謝り続ける奈留を宥めようと奮闘する、謝罪の内容は当然昼の一件だが、どうして彼女がここまで申し訳なさそうにするのかがわからない。

 

 結果だけ見れば俺が勝手に自爆しただけだというの、何故に奈留はまるで本当に失敗した・・・・・・・かのように言うのか。

 

「次こそは! 次こそは美味しく作って見せるから! 今日のは何かの間違いということで忘れていただけないでしょうか!」

「いや、卵焼き以外は普通に美味しかったし、そこまで気にすることは――」

「それが一番問題なんです!」


 うーむ、こっちだってアレが奈留の仕業じゃないことなど十分承知しているというのに、何故ここまで必死なのか。

 

 もしかしたら、俺が今回の事を真に受けて、奈留が料理下手という情報を言い触らされるのが嫌なのだろうか、確かに女の子的には外聞がよろしくないかもしれない。

 

 もちろんそんなことしないし、そもそも言い触らす相手が居ないというのに。

 

 自分で言っててちょっと悲しくなった。

 

「とにかく今日はごめんなさい、お昼の後も無視しちゃったし、嫌いになっちゃったよね?」

「いやいやいや! こっちこそごめん、俺がもっと上手くやればよかったのに」

「だから幸也くんは悪くないよ! 私の蒔いた種だもん、全部私が――」

「違う、俺が悪い!」

「私が悪いの!」


 ついにはお互い声を荒げ言い合いみたいな形になってしまう、しかし口調とは裏腹に、俺たちの空気は柔らかいものに変わっていった。

 

「ふ、ふふ」

「あはは! 俺達、謝ってばかりだな」

「そうだね、ふふ、ごめんね?」

「ほら、また」

「あっ! もう、なんか癖みたいになっちゃった」


 最初は涙声だった奈留に余裕が戻ったようで胸を撫で下ろす。ひとまず落ち着いてくれたようだ。

 

「でもね、本当にもう一度チャンスが欲しいって言うのはほんとなの、だから明日! もう一度私に挽回の機会を!」

「ちゃんと奈留の事情・・はわかってるから、そんなに無理しなくても」

「無理なんかじゃないよ! 幸也くんに、ちゃんと美味しいって褒めてもらいたいもん!」


 そんな場合では無いのに、奈留は必死になると子どもっぽくなるな、なんて考えてしまう。

 

 それにしても奈留の様子からは本当に俺に食べて欲しいという気配しか感じられない、もしかしたら俺から「奈留メシマズ説」を払拭するのに必死なのかもしれない。そんなこと・・・・・に気づかないほど俺が鈍感だと思われているのか、ちょっと切ない。

 

 そう考えた俺は、奈留に1つ提案をすることにした。

 

「とにかく幸也くんは明日もお昼を空けておいてほしいの! 私と2人きりが嫌なら服部君も一緒でいいから!」

「いやそれ服部君が死んじゃうから……それじゃあ俺からも1ついいかな?」

「? な、なんでしょうか!」

「そんなに身構えなくても大丈夫、まぁ、俺ばっかり作ってもらうのも悪いからね」


 そう言いながら明日のお昼の献立を考える、いつもはめんどくさくて作ってないが、たまには良いだろう、丁度お弁当箱もあることだしね――

 

 

 

 

 

「死にたい……」

「な、奈留さん? 何かお口に合いませんでしたか?」

「ううん、美味しいから死にたいの……」


 翌日の昼休み、昨日同様2人で屋上に出向くとお互いにお弁当箱を交換する形となった。

 

 男の手料理なんて嫌だったかもしれないなんて考えてしまったが、奈留は少しびっくりしたくらいですんなり受け取ってくれた。

 

 一応昨日電話でこのことは伝えてあったが、冷蔵庫の中身と対話しながら作った自信作だったので、万が一拒否られたら泣いてたかもしれない、最近泣いてばっかりだ。

 

 そして今日は「あ~ん」は無しでお互い「いただきます」をする。最初俺が卵焼きを見て小さな悲鳴を上げてしまった事以外は概ね順調に食べ進めていった、はずだったんだが……

 

 お弁当を食べ進める奈留の瞳からどんどん光が失われていった、無表情でお弁当を突く奈留は、申し訳ないがかなり不気味だった。

 

 ちなみにこちらはというと、昨日とは違い卵焼きはふっくら柔らかく、丁度良い甘さで味つけてあり、美味。

 

 他のおかず達も種類は違えど概ねパワーアップしていて衝撃を受ける、やはり前回のは奈留苦心の作だったのだと改めて思い知らされた。

 

 そんな奈留も最初こそ俺が美味しそうに食べる姿を見て微笑みさえ浮かべていたのだが、どうしてこうなったのか、やはり何か嫌いなものでも入っていたんだろうか。

 

「やばい、本当に私調子に乗ってただけじゃん、やばたにえんじゃん……」

「な、奈留? なんかいつもと様子違うんだけど?」

「いえ、自分の力不足を痛感させられたというかですね……ねぇ、幸也くんっていつも料理するの?」

「ああ、まぁ基本毎日作ってるけど? 親が忙しいから朝と夜は俺が明菜の分もまとめてね」

「このレベルを、毎日……ということは、幸也くんは当然として、明菜ちゃんの舌は相当肥えているということじゃ……」


 後半は声が小さくて聞き取れなかったが、ぶつぶつと何事か呟きながら、まるでこの世の終わりとでも言わんばかりに縮こまる奈留を見て、昨日とは別の意味で心配になってきた。


 なんだろう、やはりこの罰ゲームに相当追い詰められているのだろうか。

 

 結局完食しても奈留の様子は戻ることはなく、珍しいことに、俺がぼんやりとしている奈留の手を引いて教室に戻ることとなった――

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