9話
今朝の号泣事件からはこれと言った問題は起きず、奈留も
そうして迎えた昼休み、いつもなら服部君と連れ添い学食で日替わり定食を嗜む時間だが、悲しいかな、隣の可愛い可愛い天使が悪魔からのささやきを告げた。
「幸也くんっていつもお昼は学食だよね?」
「え、ああうん、そうだけど――」
俺は良く知っているなと不審に思った、確かにいつも教室では食べていないが、購買やコンビニで済ませているという可能性もあるというのに。
ちなみにこのときは知る由もないが、真実はギャルの参謀役高橋が確認していたからである。流石昨年の定期考査学年1位、侮れない。
「もし、もしね! 幸也くんが嫌じゃなかったらなんだけど……」
「は、はい――」
待て、まて、マテ、まさかこれは、
「幸也くんの分もお弁当作ってきたの、だからその、2人で食べられない、かな?」
――いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 誰か助けてくれええええええええええええええええええええええええ!!
表情筋に全神経を籠めなんとか顔に出さないように心の中で絶叫した、もう俺にはお昼ご飯というユートピアに逃げ込むことさえ許されないのだ……ごめん服部君、もう君と一緒にご飯食べられないみたいだ、今まで本当にありがとう、元気でな……
「やっぱり突然だし迷惑だったかな、ごめんね、朝も急に押しかけちゃったし……」
「いや、違うんだ! ただその、嬉しくて、は、はは、はははっ!」
「! 幸也くん楽しみにしてくれてたんだ、プレッシャー感じちゃうなぁ」
えへへと笑う奈留の顔を直接見ることが出来ない、傍目には照れて顔を背けた様に映っているかもしれないが、そうじゃない。
俺は奈留から背けた瞳でギャル達を睨みつける、だけどあいつら内心確実に楽しんでいるくせにこっちを見てすらいないじゃないか!
奈留が屈辱を飲んで俺を昼に誘っているというのに……頼む神様、俺のことはもういいから、奈留だけは何とか救ってやってくれ!!
「待たれぇい! 遠山殿は拙者と食べるのが通例! 拙者の断り無しで連れていくことは許さんぞ!」
そこに差す一筋の光明、服部君が俺を引き留めようとしてくれた。
恐らく今朝のことについて聞きたいという事情もあるのだろうが、俺は唯一無二の親友の男気に胸が熱くなってしまった。
しかしもう手遅れなんだ服部君、もう奈留は
だからこそ俺はもう操り人形のように奴らの計画に従うしかないんだ。
「あ、そうか、ごめんね服部君、幸也くんのこと取っちゃって……それじゃ、服部君も一緒に食べる?」
「え?」
「本当は屋上に行こうかなって思ってたんだけど、2人が良ければ私は学食で食べても構わないよ?」
その時、服部は思った。もし仮に3人で食べた場合、バカップル2人のイチャイチャを永遠に見せつけられ続けるのではないかと、今朝仲良く手を繋いで登校してきた2人だ、きっと食事中あまあまムードなのは間違いない。
それこそ「あ~ん」でも見せられようものなら自分の心が砕け散ってしまう、と。
「い、いや! それには及ばないでござるよ! うん、やっぱり初々しいカップルの邪魔は出来ないでござるな! ははっ!!」
「そんな、カップルだなんて……ほんとのことだけど(ボソッ)」
「それではお邪魔虫な拙者は退散することにするでござる! 2人とも仲良くするでござるよ! にんにん!」
服部君が爆速で教室から消えていった。正直ワンチャン一緒に食べてくれることを期待していたので親友の熱い裏切りに心が砕け散った。裏切者はどっちなんだ……
「それじゃ行こう幸也くん、早く行かないと座るとこ無くなっちゃうかも」
「ハイワカリマシタ」
虚空を見つめる俺の手を奈留に引っ張られ、好奇の視線を感じながら教室を出た俺たち。
何故かご機嫌な奈留が先導しているため今の表情を見られていないのが幸いであった。何故なら俺はこれから屠殺される家畜のような気分で、屋上まで連れられて行ったのだから――
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