8話
「遠山殿ぉぉぉ! 貴様ぁ、裏切ったでござるなぁぁぁ!!」
重い足を引き釣りながら教室まで辿り着き、奈留と一旦離れてすぐのこと、俺の唯一の友人である
いや胸倉は実際掴まれてるし、現在進行形でガンガン揺らされているんだけど。
服部君は去年流行ったソシャゲを通じて仲良くなったソシャゲジャンキーのバイト戦士である。バイト代のほとんどを所謂ガチャにつぎ込んでいるためときどき爆死しては俺が慰めるのが日常茶飯事となっている。
ちなみに彼の口調が忍者っぽいのは「苗字が服部で生まれたからには避けられない」とのことだ、あまりにもその血の業が深すぎる。
こんなんでも英国人とのハーフで金髪というのもまたそれに輪をかけてシュールである、属性盛り過ぎだろ。
「は、服部君、ちょっと、離して、落ち着いて話そう――」
「これが落ち着いていられるわけないではござらんか! なして佐伯嬢と手を繋いで登校してきたのか! もう答えは出ているでござる! 拙者たちはモテない男の契りを結んだ仲だったはずではござらんかぁぁぁ!!」
「わ、わかったから、少し声を抑えて、とにかく手を放して」
そんな契りを結んだ覚えはないが、とにかく落ち着いてくれなければ話にならないのでなんとか宥めなければ。
というか服部君は本気出せばすぐ彼女できそうなんだけどな、イケメンだし。
「服部君、これには海より深い――」
「嘘だぁぁぁ! 遠山殿は都合が悪くなるといつもそれでござる! ちゃんと説明しろよオラァァァ!」
「服部君! 素! 素が出ちゃってるよ!!」
まだ鼻息の荒い服部くんに深呼吸を促した、まるで牛闘士の気分である。
少し落ち着いてきたのを見計らい、クラスの最端である俺の席まで服部君を引っ張り込むと小さめの声量で話し始めた。
「服部君、これは誤解なんだ、俺と奈留は確かに付き合っているが、付き合ってはいないんだ」
自分で言っててなんだが全然意味が分からない、しかも浮気の言い訳みたいになってしまった。
「ほう、しかし佐伯嬢のことを名前で呼んでいるのは気のせいでござるかな?」
「それは奈留に頼まれたからで……ともかく俺と奈留は服部君が思ってるような関係じゃないんだ」
「いや仲良さそうに手を繋いで教室に入ってきておきながらそれは無理があるだろ」
「服部君、自分のキャラを大切にしよ?」
なんとかいつもの調子に戻ってきた服部君とは打って変わって俺は困っていた。流石に例の罰ゲームについて服部君に説明するのは至難の業だ。さらに、もし服部君も巻き込んで仕舞ったらと思うと胸が苦しい。
「説明がすごく難しいんだけど、奈留は俺に嫌々付き合ってくれているというか、そんな感じで――」
「そんなわけないでござる! 見るでござるよ! あの佐伯嬢の笑顔を! あれが嫌々男性と付き合うことになった
服部君が指を差す方を見ると、奈留とギャル3人が固まってなにやら
奈留が自分のスマホ画面を恥ずかしそうにギャルに見せると、3人が一斉にどよめきを上げたのだ、あ、あああ、あれはまさか――
間違いない。昨日の俺のキモい返事を見せているのだ! 早速の辱めを受け、今すぐ教室の外に走り出したい衝動に駆られたが、あまりのショックに足が動いてくれない。
ちなみに奈留が見せているのは実際俺の返信で、田中たちは「あいつ意外と度胸あんな」と感心していたわけだが、もちろんこのときの俺はそんなことに気づいていなかったわけである。
「拙者の記憶ではあんなに嬉しそうな佐伯嬢を見たことないでござるよ! これでもすっとぼける気でござるか遠山殿! ……遠山殿?」
服部君が何か言っていたが、もう俺には返事をする元気もなく、俺の瞳からついに涙が零れてしまった。
「と、遠山殿!? どうして泣いてるでござるか!? よくわからんが拙者が悪かったでござる! だから泣き止むでござる! お願いだから泣き止んでくれよぉ!!」
必死に励ましてくれる服部君だが、俺の涙は留まることを知らなかった、手で顔を覆い、声を押し殺して泣き続ける。
結局その状態では話すことなど当然出来るわけもなく、始業のチャイムが鳴るまで俺の
その後ギャル達との会談を終え、席に着いた奈留に赤くなった目を心配されたが、花粉症だと誤魔化し難を逃れた、いやどう考えても誤魔化しきれていなかったわけだが。
心配する周囲を余所に、俺は何とか心を取り戻しつつあった、俺が墜ちてしまえば次に狙われるのは奈留だと自分に言い聞かせ、担任が来るまでになんとか体の震えを抑え込むことが出来た――
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