5話

 カーテンの隙間から覗く太陽の光がいつもより眩しい。朝を迎えることがこんなに苦しいことだなんて思いもしなかった。

 

 告白罰ゲームの翌日。結局昨日はあの後奈留からメッセージが届くことなく、悶々としながら夜を過ごすことになった。

 

 ちなみにお寿司はなんとか頂きました、あんなに美味しく感じないお寿司は初めてでした。

 

 のろのろとベッドから立ち上がると寝間着を脱いで制服に身を包んでいく。階段を下りてリビングに入ると既に起きていた妹様のお姿があった。どうやらいつもより遅く起きた俺にお冠・・のようだ。

 

「お兄ちゃん遅い! 朝練遅れたらどうするのさ!」

「そう思うなら自分でご飯用意しようとは思わないのかい、明菜さんや……」

「だってお兄ちゃんが作ったほうが美味しいんだもん」


 トースト焼いて目玉焼き作るだけなのにそんなに差が出るわけないだろ……なんて説明してもしょうがないので、早速いつもの作業に取り掛かる。朝からエプロン付ける男子高校生なんて俺くらいのものだろう、アニメじゃあるまいし。

 

 フライパンに油を敷いて熱する間に卵をボウルに割っていく、ある程度温まったらボウルの中身と水を入れて蓋をする。そうしたらトースターにパンをセットして付け合わせのサラダを作ることも忘れない。あっという間にモーニングセットの完成である。

 

 いつもは自分の分は後で作るが、今日は少し遅れてしまったため3人分まとめて作ってしまう、本当は目玉焼きは半熟が良いのだが、こればっかりは仕方ない。

 

「お、今日はお兄ちゃんも固焼きなんだ、ついに半熟教から改宗したんだね」

「今日だけだからすぐ戻るけどな、さて、いただきます」

「いただきまーす!」


 2人仲良くテーブルに着くと手を合わせて今朝の供物を頂いていく。

 

 ゆっくり食べる俺とは裏腹に、物の3分で平らげた明菜は椅子に掛けてあるスクールバッグを掴むとバタバタと玄関に向かった。

 

「それじゃいってきまーす! お兄ちゃんとお母さんも遅刻しないようにね!」

「わかったわかった、母さんもちゃんと起こしておくから、お前も気を付けて行けよ」


 食パンを齧りながら手をひらひらとさせて明菜を見送る。元気よく玄関の扉の閉まる音が聞こえたが、それから数瞬後にまた扉が開く音が響き渡る。何事かと思う間もなく明菜がリビングに帰ってきた。

 

「お、お兄ちゃん!なんか家の前に大和撫子っぽい人が居るんだけど!」

「はぁ?」


 一瞬明菜が何を言っているのか本気でわからなかったが、すぐに1つの可能性に辿り着いた。

 

 いや、そんな馬鹿な、まさかそこまでやるのか・・・・・・・・

 

 齧っていたパンを一気にほおばると急いで外に飛び出す、そこには想像していた通りの光景が待ち受けていた。

 

「あ、幸也君! おはようございます」


 俺の姿を見るとにこりとほほ笑み、挨拶をする奈留の姿がそこにあった。

 

 想定していたのに信じられないという矛盾した思考に俺の全身はフリーズしてしまう。しかしこのまま外に立たせておくわけにはいかない、俺は反応の鈍い体に鞭を打ち、彼女に話しかけた。

 

「お、おはよう佐伯さん、今日はどうしたの?」

「むぅ……」


 どうしたの? なんて俺を迎えに来た・・・・・・・に決まっているだろう、しかし聞かずにはいられなかったのだ。しかも何故か奈留は不機嫌になるし、って、あ。

 

「あ~……おはよう、奈留?」

「! ん、よろしい!」


 こんなことで機嫌を直してくれるなら安いものだ、いや、設定を大事にしろという忠告だという事は分かっているのだが。それでもやっぱり奈留は笑っている方が可愛いし、可能な限り名前で呼ぶように気を付けなければ……

 

「と、とにかく俺まだ準備できてないからさ、家上がって待っててくれる?」

「ゆ、幸也君のお家に!?」


 まぁ知らない男子、それも俺の家に上がるのは嫌かもしれないけど、ここまで驚かれると流石に辛い。

 

 ともかく家の中に案内することにした、昨日は気づかなかったが靴を脱ぐ所作まで完璧でまさにお嬢様って感じだと、そんな場合では無いのに思ってしまう。

 

 2人でリビングに入ると明菜が所在なさげに座っていた。そういえば先の衝撃ですっかり忘れていた。

 

「明菜お前ゆっくりしてるけど、部活は大丈夫なのか?」

「今はそれどころじゃないでしょ! それでお兄ちゃん結局あの人だ――」

「えっと、幸也君の妹さんかな? おはようございます」

「ア、ハイ、オハヨウゴザイマス……?」


 奈留の姿を見て明菜が1分前の俺のように固まってしまう。俺とは違い基本的に人見知りしないので、珍しいものが見れた。

 

「悪いけど適当に座って待ってて、すぐに準備するから」

「急がなくて大丈夫だよ! 押しかけちゃった私が悪いんだし――」

「それだけどさ、RINEであらかじめ待ち合わせしておけば良かったんじゃないか?」

「……あ゛」


 奈留の口から出たとはとても思えない「あ゛」だった。聞かなかったことにしよう。

 

 明日からはそうするね・・・・・・・・・・、と小さく告げる奈留を背に、俺は急いで身支度を整えるのであった――

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