第16話'物部氏の祖神 ニギハヤヒ(後編)

 後の神武天皇こと神日本磐余彦かむやまといわれびこ天皇(以下、神武)は 東に美しい国があるとの話を潮の神 塩筒老翁シオツチから聞き、そこへ行って都をつくろうと 3人の兄とともに軍を率いて高千穂(宮崎か?)から東へと船で向かった。

 東にある美しい国というのは 大和国のことであるが、そこでは同じく天から降りてきていた物部氏の祖神 ニギハヤヒが既に君臨している。

 東に軍勢を進める中で、神武兄弟は 様々な困難に遭い、神武の兄達は1人、また1人と倒れていき、ついには末っ子の神武1人となってしまった。

 だが、それでも神武は諦めない。

 そんな神武の行く手には、更に数々の試練が待ち構えていた。抵抗する各地の豪族とは 争いになり、時に霊剣の助けにより危機を脱し、時に八咫烏の導きによって敵を打ち滅ぼし、あるいは服従させ、目的地へと迫っていく。

 而して、ついに最強の豪族 長髄彦ナガスネヒコとの戦いが訪れる。それも、一度は敗れた相手,兄を弓で射、殺害した相手だ。 

 戦いは両者譲らず 一進一退を繰り返したが、その戦いが困難を極めたちょうどその時、どこからともなく金色に輝く鳶が飛んできて、神武の弓に止まった。すると、その金色の鳶は 稲光のように光り輝き、敵軍の目をくらませた。

 この奇跡を受け戦闘不能に陥った長髄彦は 神武に使いを送ってきた。そして 最終的には 長髄彦が奉じるニギハヤヒが 神武を天孫 ニニギの後継者として受け入れた。

 こうして、最強の豪族との戦いも終わり、神武は大和を平定することに成功したのだった。          (神武東征)


—この伝説の中で 特によく言及されるのが、古代、ということだ。このことは、東征神話や銅鐸文化の消失などから、天皇家が畿内に来るより前に、そこに何らかの政権があったことは必ずしも否定できない。

 余聞だが、私は 畿内にある纏向まきむく遺跡の存在を邪馬台国と別勢力のものだと判じており、天皇家は 邪馬台国と何らかの関係があって、九州から東征したものと思料している。

 しかし 私は、この神話は たとえ基盤ベースがあったとしても、そこに時の権力者の思惑があり 脚色がほどこされたものと踏んでいる。

 ニギハヤヒは 系譜上 文武が比定される初代 神武天皇の対立者だが、かの神は 神話の内容から 同じく文武が投影されていると思しき天孫ニニギの対立者 藤原版 大国主と同じような立ち位置であり、かつ、2神は最終的に同様の行動をとっていた。その行動とは、すなわち 相手の主張を認め、それを受け入れるという選択だ。

 思うに・・、藤原版 大国主が誕生した後、そこから連想・連関してニギハヤヒが創作されたのではないだろうか? その改変者は 大方、藤原一千年の礎を築いた人物 不比等で、その真意が表出されたのは 多分 持統の崩御後だが、恐らくニギハヤヒにも 藤原氏と関係のある人物が比定されていた。

 では、天皇家の敵対勢力に投影してまで 藤原氏が ここで企図したこととは何だったのか? その心は、ズバリ であり、畢竟、虚栄みえあるいは権威付けだったのではないかと私は探究していた。

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