第14話 「大国主の国譲り」(前編)

 日本神話には それらがまとめられた当時の状況・情勢や時の権力者の事跡などが反映されているのではないかと一部で指摘されている。

 例えば、日本史上初の女帝 推古天皇(第33代)の時代に起こった日食が 太陽神 天照大神の「天岩戸」神話に投影されていると想像されるし、初代 神武天皇の東征神話には 第40代 天武天皇の即位前の事跡である壬申の乱(672年)が投射されているのではないかと見受けられていた。

 当時の天皇家の系譜は 少なからず神々の系譜に比定されていることが2つの系譜の流れを見比べると伺えるが、初代天皇には 何故か くだんの天武天皇ではなく 別の人物が投影されていることが見てとれた。その人物とは、正史『日本書紀』の最後において 祖母 持統女帝(第41代)から位を譲られた第42代 文武天皇。大方、もともと天武天皇が初代大王に比定されていたのを、次代である持統が気に食わず現在の形へと改変したのだろう。

 中華帝国等においては歴史書の最後を飾るのは前王朝最後の王 あるいは 新王朝の初代であり、持統が 文武をどういった位置付けとして前面に押し出そうとしたかが窺い知れた。


敏達-⬜︎-舒明-天智・天武-草壁-文武

推古(日食:628年)

| 密通?

蘇我馬子

   

天照(「天岩戸」神話)

‖-⬜︎-ニニギ-海幸・山幸-草不合-初代

スサノオ


 因みに、初代天皇と並ぶ存在として皇祖神があるが、そこには女傑 持統天皇も投影されていることが かの女神の「天孫降臨」神話から推測される。おそらくは 21、 自分こそが皇祖神に相応しいと、天照大神に自らの実績を上書きしたのであろう。

 このため、文武天皇が比定される天孫 ニニギと初代 神武天皇の神話においては、前者が 祖母 天照大神から統治を任されたはずの土地を、後者が征服するという齟齬が生じたのではないかと私は拝察している。


天照大神—□—ニニギ

 ‖

スサノオ—大国主


持統女帝—□—文武天皇

 ‖

天武天皇—高市皇子

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