第12話' 蘇我氏と出雲(後編)

 荒ぶる神 スサノオは 天界から追放された後 出雲の地に降り立っている。そこは"根の国"とも呼ばれていたが、現在その地を含む周辺地域一帯を島といった。

 正史において、スサノオは かの地で猛威を振るっていた八頭八尾の怪物 八岐大蛇ヤマタノオロチを退治し 奇稲田姫クシナダヒメを救うなど英雄的な逸話を残しているが、これは一説にはのことだったのではないかと解釈されている。そして、この場合 奇稲田姫はを表すと見做されていた。

 スサノオに限らず 悪神が別局面で活躍することは多いが、もう一つの歴史書『古事記』では、実に出雲神話だけで神話全体の3分の1が占められていた。


 その出雲は、古代の有力豪族 蘇我氏と繋がりがあったのではないかと高察されている。出雲大社境内にある荒ぶる神 スサノオを祀る社は"素鵞社そがのやしろ"といい、スサノオの最初の宮は須賀すが。蘇我は"宗我"・"宗賀"とも書くが、それらはとも読めた。私が 用明天皇の娘 酢香手姫皇女すかてひめのひめみこに蘇我氏との繋がりを覚えたのも この絡みである。

 また、出雲は 鳥を重視していたことで知られているが、蘇我氏も鳥を一族の象徴としていたのではないかと私は疑っていた。前者はおそらく その支配地域に白るところがあったゆえだと私は愚考しているが、後者は その一族の本拠地を"飛鳥"と呼ぶことなどから伺えた。

 更に、スサノオの八岐大蛇退治の逸話から かの王国が農業政策を推進していたであろうことが心当てをされるが、農業政策は蘇我氏のお家芸だったのではないかと私は狐疑していた。

 これらのこと等から 蘇我氏と出雲の関係性が窺われ、やはり出雲神話の雄 スサノオには蘇我氏の人物が投影されているのではないかと私は目算していた。

 因みに、蘇我氏の本拠地 飛鳥は"ア(接頭語)''+"スガ"が語源とも言われているが、蘇我宗本家を滅ぼした中臣鎌足の後裔 藤原氏の氏神は春日カスガ大社に祀られている。かの社には中臣氏の祖神 天児屋根命や(スサノオの子)大国主に国譲りを迫った武甕槌命 並びに 経津主命などが祭祀されているが、このうち経津主命は物部氏と関係が深い神であった。

 大国主には 大方、天皇家の対立勢力 蘇我氏の人物が投影されていたであろうことが揣摩憶測されるが、にも関わらず、その後 なぜか大国主の子孫は 世代を隔絶して初代天皇の后となっている(『日本書紀』)。それが事実だったからだと言われてしまえば それまでだが、そこには藤原氏の影が垣間見えた。多分 時の最高権力者であった藤原不比等が神話を自らの都合の良いように書き換えたのであろう。


武甕槌命・経津主命(春日大社に祭祀)

 ↓国譲りを迫る

大国主-事代主———————五十鈴依媛命

       ∟ 媛蹈鞴五十鈴媛  ||

         ||——————綏靖【2】

草葺不合尊———神武【1】

↑天照の玄孫


藤原鎌足-不比等———————光明子

         ∟宮子     ||

         ||—————聖武【45】

草壁皇子 ————文武【42】


 而して、この神話の書き換え・不整合から 一千年の栄華を築いた一族 藤原氏の真の出自が断片的に伺い知れた。

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