第11話 「ニニギの結婚」

 私は、日本神話に登場する海幸彦・山幸彦の兄弟神には 天智・天武 両天皇が投影されていると推考している。

 天智・天武 兄弟には 兄弟関係が逆転しているのではないか 等の疑義が持たれているが、かの神話には その事実も反映されているのではないかと私は踏んでいた。

 英雄 天武天皇の正体を巡る学説には 大きく3つの系統があるが、私は このうち、 であったとの説を支持している。

 私がそう心当てをする理由の一つとして、天智・天武が投影されていると思しき海幸・山幸が誕生する際の説話の存在があった。


 海幸・山幸の父にあたる天孫 ニニギは 祖母らの指令で 天界から高千穂へと降臨したが、降りてきた地上で、ある1人の女性と瞬く間に恋に落ちた。

 天孫 ニニギは、すぐさま女性に求婚。すると、女性の父である山の神は大いに喜び、2人の娘を天孫 ニニギに差し出してきた。1人は 醜いが 寿命が長い磐長姫いわながひめであり、そして もう1人は 彼が見初めた美しいが 寿命が限られている木花咲耶姫このはなさくやひめだ。

 ここで、ニニギは美しい木花咲耶姫のみを娶り、醜い磐長姫を返すという選択をするのだが、ちなみに このことによって天皇に寿命が生じてしまったとされている。

 しこうして その夜、ニニギと木花咲耶姫は 夫婦の契りを交わした。

 さらば、翌日 何と何と、木花咲耶姫は 一夜にして身籠ったというではないかッ!

 流石に 驚いた天孫 ニニギは、木花咲耶姫に向かって こう言った。

 「ホントに俺の子か?!」

 いくら何でも これにはカチンときた木花咲耶姫。怒りに任せて 戸口のない小屋を造り、その中にこもって、

 「私がはらんだのが天孫の御子にあらねば、必ず焼き滅びましょう。もし本当に 天孫の御子ならば、火をもっても害されることはないでしょう。」

 と誓いを立て、小屋に火を付けた。

 子は木花咲耶姫の言う通り、天孫の子であったので、見事 お産は成功し、海幸・山幸ら3柱の神が誕生したのだった。


— 以上が「ニニギの結婚」という神話のあらましとなるのだが、この神話は、実に

 なお、立ち上った煙の中から生まれ出でた子が兄 火闌降命ほすせり(海幸彦)であり、熱が鎮まって生まれ出でた子が弟 彦火火出見ひこほほでみ(山幸彦)である。

 火のないところに煙は立たないと言うが、何故よりにもよって 疑惑があるところに、それに則した神話が置かれているのか? 流石に、これは 私には偶然だとは思えなかった。

 まぁ、それでもまだ 偶然の可能性は排除できないので、神話の系譜と当時の天皇家の系譜を比較すれば、以下のようになる。


推古 (日食が起こる)

敏達-⬜︎-舒明-天智・天武-壁-文武


天照(「天岩戸」)

‖-⬜︎-ニニギ-海幸・山幸-不合-初代

スサノオ


 このうち、初代 神武天皇に比定される文武天皇は 正史『日本書紀』の最後で 持統女帝に位を譲られた人物であり、。中国の歴史書等において 最後を飾るのは、前王朝の最後の帝 もしくは新王朝の初代だった。

 神武天皇は、山幸彦と同じ名前(彦火火出見)を持ち、「神武東征」には壬申の乱が投影されているとも勘案されているが、或いはもともと天武天皇が比定された初代があり、後の権力者によって、それが後方にスライドされるなどして、現在の形となったのやもしれない。

 この件について、詳しくはまた別の機会に述べる。

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