第1話 天武天皇

 第40代 天武天皇は、舒明天皇(第34代)と皇極女帝(第35代)の皇子として、7世紀前半 この世に生を得たとされている。即位前の主な呼称は 大海人皇子。彼は 天文遁甲をくし、また槍の遣い手でもあった。大化の改新の主人公 中大兄皇子、後の天智天皇(第38代)とは 同母兄弟であったと正史には記されている。

 彼の事跡として特筆すべきことは 何と言っても、古代史上最大の内乱 壬申じんしんの乱(672年)であろう。当時、朝鮮半島の国々との間の国境線は不明確であったが、この時代の一連の出来事、とりわけ、この内戦により、ほぼ防衛線が確定。その後の改革も相まって、一部では、天武天皇は"第二建国者"とでも言うべき存在だと目されている。"日本"という名称が使用され、この国の古代の歴史ルーツが纏められたのも かの時代だった。

 正史『日本書紀』において、天武天皇は 全30巻のうち 2巻を占める主役級の扱いを受けているが、にもかかわらず、彼は その素姓が一部で疑われている。というのは、さような優遇を受けていながら正史のどこを探しても 天武天皇の年齢が分からない違和感からだ。これに加えて、後世の歴史書に残された天武天皇の年齢と『日本書紀』に記された彼の兄 天智天皇の年齢を比べると、2。歴代天皇のうち ハッキリと生年が確定できないのは、天武天皇と南北朝時代の天皇くらいだった。

 また、天武天皇は その前半生が判然としなかった。兄 中大兄皇子が活躍した大化の改新の端緒 乙巳の変(645年)にも 彼は参加していない。彼が本格的に活動を開始するのは、白村江の敗戦(663年)の翌年からだった。


 では、仮に この疑惑が真実だったとして、何故 彼の本当の素姓は隠されてしまったのか?

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