第10話' スサノオと大国主(後編)

 ところで、天照大神には 持統女帝以外にも 日本史上初の女帝 推古天皇(第33代)が投影されていると私は愚考しているが、"天照大神=推古女帝"だとしたら スサノオには一体 誰が該当するのか? 

 本来なら 推古女帝の皇配である敏達びだつ天皇(第30代)を かの神に比定する人物として想定すべきところであるが、スサノオは 天界から追放されていた。よって、その可能性は 除外した方がよいだろう。

 ただ、天皇家という理由で その線を排除するなら "天武天皇=スサノオ"も成り立たないような気がするが、天武は その素姓に疑いが持たれていた。

 ここで思い出されるのが、推古女帝の密通疑惑である。かの女帝は 蘇我氏全盛の立役者 蘇我馬子と男女の関係にあったと噂されていた。馬子はその当時 時の天皇暗殺を命じた記録が残っているなど 天皇家にとっての脅威であったが、そのイメージは "荒ぶる神"スサノオと合致した。蘇我氏と出雲がつながりを有しているという点も 無視できない。

 加えて、もう1人のスサノオ 天武天皇と蘇我氏との間にはつながりがあった。天武天皇は 壬申の乱(672年)という大乱を起こして即位しているが、かの大乱において 蘇我系豪族が彼を支援。その後、彼は 蘇我氏の本拠地 飛鳥で即位していた(飛鳥浄御原宮あすかきよみはらのみや)。


 天武天皇と蘇我氏の関わりが事実だったとすれば、蘇我馬子が時の天皇 崇峻(第32代)を暗殺した記事が残っていることも説明できる。私は、崇峻天皇が暗殺された記事が残っていることを前々から疑問に思っていた。前の時代だから書けるのかとも考えたが、現在と関係のない天皇家の不名誉だからこそ隠すのではないかと勘ぐれた。実際、神功皇后の夫 仲哀天皇(第14代)は暗殺された感があるが、明確に暗殺されたとは書かれていない。

 だとすると、『日本書紀』編纂時の権力者であり、かつ、皇祖神 天照大神に投影された天武の次代 持統女帝の狙いは ? そのために、蘇我氏を貶めたとするならば、蘇我氏と天武天皇との関係が自ずと窺われた。

 よって 私は、"天照大神=推古女帝"の場合、スサノオに比定されるのは 蘇我氏全盛の立役者 蘇我馬子だったのではないかと胸算用していた。

 ならば この場合、豊葦原中国の王 大国主には 誰が該当するのか?

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