第5話

 アリアンナ嬢は必至で逃げていた。

 姫騎士達は皇太子の近衛騎士達を圧倒してくれていたが、残念ながら数に差があり過ぎて、一騎また一騎とアリアンナ嬢の側から離れていった。

 いや、近衛騎士だけならまだどうにかなっただろう。

 問題は敵かどうかわからない令嬢や公子だった。


 親切顔で近づいてきて不意討ちするかもしれないのだ。

 誰も信じることができず、人の多いところを避けて逃げなければいけなかった。

 馬車置き場や騎馬預かり所の方には行けず、どんどん宮殿の奥深くに迷い込んだ。

 最後も姫騎士が皇太子の近衛騎士を阻んでいる間に、アリアンナ嬢一人逃げなければいけなくなった。

 人の気配を感じたアリアンナ嬢は、扉を開いて部屋の中に飛び込んだ。


「誰だい?

 随分怯えているようだね?」


 入って直ぐに部屋の奥から声をかけられたアリアンナ嬢は驚いてしまった。

 が、正直に答えた。


「皇太子に罠に嵌められました。

 貴男は皇太子の一味の者ですか?

 ならば近づかないでください。

 近づいたら自害します!」


「やれやれ、エマヌエーレまだ動いていないのか……」


「え?

 なんですか?」


「いや、なんでもないよ。

 こちらの話だ。

 それよりも何もしないから入ってきなさい。

 扉の鍵は閉めなくてもいいよ。

 ここの扉には魔法がかけてあるから、悪意を持った者は入ってこれないからね」


 アリアンナ嬢は心底驚いていた。

 平気で魔法をかけているという事が驚きだったのだ。

 魔法というモノが昔実在していたことは、皇族であるアリアンナ嬢も知っていた。

 いや、ファインズ公爵家にも臣籍降下するときに魔法の道具が下賜されている。

 だからこそ、魔道具が恐ろしく貴重な存在であることも知っていた。

 初めて会った人間に、簡単に魔法の存在を話す男に興味がわいた。


「そんなに簡単に魔法の存在を打ち明けていいのですか?」


「心配してくれるのかい?

 さすが邪悪除けの魔法が通した人間だね。

 魔法や魔道具の存在を知っていて、それを奪おうというのではなく、教えたことを心配してくれるとはね」


「人として当然ではありませんか。

 こんな宮殿の奥深くに部屋があるなら、貴方様は私の知らない皇族なのでしょう?

 何か曰くのあられる方なのでしょう?

 今皇室は大変な状態だと察しております。

 魔法や魔道具の存在は、命を護るためには絶対に秘密にしなければいけないのではありませんか?」


「ああ、アリアンナ嬢でしたか。

 幼いころにお会いしただけなので、ここまでお美しく成られているとは思わず、直ぐに思い出すことができませんでした。

 ふむ、あのディエゴが執着するはずですね、とてもお美しい。

 しかし、ファインズ公爵家にまで手を出しましたか。

 もう見逃すわけにはいきませんね。

 皇帝陛下が惰弱な態度を示されるようなら、本気で動く必要がありますね」

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