第4話

「姫様!

 御逃げください!」


 公式な舞踏会のはずだった。

 密偵が調べても家臣が調べても、生き残ったわずかな友人が調べても公式な舞踏会だったのに、その会場が修羅場となった。


 皇太子に唆されたカーカム侯爵とルドヴィカ嬢が、派閥の貴族令嬢を使って、アリアンナ嬢が盗みを働いたと言い出したのだ。

 金を使って多くの令嬢と公子を抱き込んでいたカーカム侯爵によって、舞踏会場は大騒ぎとなった。

 それを取り調べるという名目で、皇太子が近衛騎士にアリアンナ嬢を捕らえろと命じたのだ。


 アリアンナ嬢を護衛していた姫騎士達は、即座に戦う覚悟をした。

 中途半端な覚悟ではなく、皇太子を殺してでもアリアンナ嬢を護るという、皇室への謀反人になるほどの激烈な覚悟だった。

 姫騎士達の剣は、一切の迷いなく近衛騎士を斬り斃した。

 一刀両断とはこのことを言うのだと、誰もが納得する太刀筋だった。


 一方近衛騎士の方は堕落しきっていた。

 皇帝陛下を護衛する騎士はまだ規律正しかったが、皇太子付きの近衛騎士は、皇太子の乱行のおこぼれにありついていた。

 そのような人間性でなければ、とても皇太子付きの近衛騎士は務まらなかった。

 心に正義を持つ近衛騎士は配置換えを願い出て、乱行を皇帝陛下に告げられるのを恐れた皇太子によって、密かに殺されていた。


 だから中には腕の立つ近衛騎士もいたが、ほとんどが騎士とは思えない惰弱な騎士もどきだった。

 だからこそ、普段は皇太子の威光を笠に着た態度をとっていた。

 今回も抵抗などされないと思い込んでいた。

 せいぜい口論になる程度だと高を括っていた。

 それが、問答無用で立ち向かってくる、それどころか皇太子に逆撃してくるなどとは考えもしていなかった。


「ギャァァァァアァアァアア!

 ヒッィィィィィイ!

 ウッワ、ウッワ、ウッワ!」


 姫騎士の一騎が、皇太子を斬り斃そうと襲い掛かった。

 だが、皇太子の近衛騎士にも腕の立つ者がいた。

 その者があわや皇太子が殺されるかという場面で助けに入った。

 危機一髪という時に、姫騎士必殺の一撃を見事に受け切った。

 その近衛騎士は残忍な性格だったが、剣の技を磨くことを厭わない、権力と富を得る方法に剣を選んだ、貧乏騎士家の四男だった。


 側室腹の四男であったために、正室や兄姉から虐待を受けて育った男だった。

 殴る蹴るに加えてられたり、食事を与えられないのは当たり前だった。

 時に焼き鏝を当てられ、一生残る火傷を負わされたこともあった。

 今もその傷は醜く顔に残っている。

 それを理由に常に仮面を被っており、仮面騎士と呼ばれていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る