第3話

 皇帝エマヌエーレは憂鬱だった。

 皇太子ディエゴの乱行に頭を悩ませていた。

 それを止めようと、皇国一の美貌と評判のアリアンナと婚約させた。

 だがそれでも皇太子の乱行は治まらなかった。

 治まらないどころか、ますます酷くなっていた。

 

 本当なら廃嫡にすべきなのだが、皇族の力関係がそれを許さなかった。

 第二皇子や第三皇子の実家は力が弱く、すでに暗殺されていた。

 第四皇子の実家は皇族だが、皇帝の政敵だった。

 母の兄がエマヌエーレと皇帝の座を争って敗れた時に処刑されていた。

 第五皇子はディエゴと同母だから生き残っているが、その母親ジョルジャは出来の悪いディエゴを溺愛し、実家の力を背景に邪魔な皇子を暗殺していた。


「エマヌエーレ。

 これ以上の悪行は見逃せんぞ。

 いい加減腹をくくれ!

 俺はお前を殺したくない。

 お前の子を押しのけて皇位に就きたいわけでもない。

 だがこれ以上ジョルジャとディエゴの悪行を見逃すようなら、神々の怒りに触れた者を皆殺しにして、誰でもいいから適当な王子に戴冠させるぞ。

 いや、ファインズ公爵は先々代皇帝陛下の直系だし、アリアンナは先々代皇帝陛下と先代皇帝陛下の血が流れている。

 神々が祝福されておられる二人のどちらかを皇帝に据えるぞ!」


「待ってください、皇叔。

 私が説得します。

 ジョルジャとディエゴにはよく言い聞かせます。

 だからもうしばらく待ってください!」


「もう何十回も待った。

 そのたびに罪のない家臣と婦女子が嬲り者にされ死んでいった。

 もういい加減眼を覚ませ。

 ジョルジャとディエゴは生まれ持った性悪で、改心などしない。

 お前がディエゴの馬鹿に皇太子の位を与えたから、下手に説得などしたら謀殺されるぞ!」


「そんな!

 いくら何でも皇帝であり父である私を殺したりはしませんよ」


「愚か者!

 だからお前はジョルジャにもディエゴにも甘く見られ、馬鹿にされるのだ!

 何なら神々の力を使って、二人がそなたを殺す相談をしている所を見せてやろうか!」


「いえ、そんな恐ろしいところは見たくありません、皇叔。

 分かりました。

 次に何かありましたら、問答無用で二人に天罰をくだしてください。

 私に報告されなくても結構です。

 ですから、今一度だけ機会をください、皇叔!」


「しかたないな……

 いくら俺が神々の御子であっても、好き勝手に人の世に介入はできない。

 それでは人が成長しないからな。

 だが、これ以上は見逃せないほど二人の悪行は人の世を悪に染めている。

 二人がエマヌエーレの説得を仇で返したら、エマヌエーレの血が絶えると思え!」


「はい、ありがとうございます」


 皇帝の絶対君主制と思われているウォレス皇国であったが、実は陰に真の実力者がいるのだ。

 神々と交信する力のあるものが、皇家の守護者として神々の御子を務めるのだ。

 だがこれは、代々の皇帝と神々の御子しか知らない極秘事項だった。

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