第6話
「皇帝陛下、クリスティアン様は何を相談に来られたのですか?」
「なんでもない!
いや、すまぬ。
マッテオに八つ当たりする事ではなかったな。
ディエゴとジョルジャの事だ」
マッテオは皇帝の忠臣だった。
先代の皇帝から譲られた密偵で、心を許せる数少ない家臣だった。
だがそれだけに、普段は皇帝として被っている仮面を捨てて、素の自分を出してしまう事もあった。
「いえ、陛下の御心中お察しいたします。
しかしながら、恐れ多い事ではございますが、クリスティアン様の御言葉を信じられるべきだと諫言させていただきます」
「なに?!
どれはどう言う意味だ?!」
「クリスティアン様はディエゴ様とジョルジャ様に謀反の疑いありと、注進に来られたのではありませんか?
今までの陛下とクリスティアン様の話し合いの後の表情を考えれば、クリスティアン様が陛下にとって耳の痛い事を伝えておられたのは想像できます。
我ら密偵団も同じでございます。
陛下にとって耳の痛い情報ではありますが、陛下と皇室の事を考えれば、例え御叱りの言葉を賜っても、伝えなければならない事があります。
聞き届け頂けず、死を賜る事になろうとも、伝えねばならない情報がございます」
皇帝は絶望感に打ちひしがれた。
最後の最後まで息子と正室を信じたかった。
子供同士は殺し合わないと信じたかった。
正室ともあろう者が、夫である皇帝の血を継ぐ皇子を暗殺しないと信じたかった。
少なくとも、父であり夫である皇帝だけは殺そうとしないと信じたかった。
だが、それが否定されてしまった。
自分が無条件で信じられるたった二つの存在に、全面的に否定されてしまった。
ここで皇太子と皇后を処刑にする決断ができたら、皇帝として最低限の責任が果たせたが、エマヌエーレは皇帝失格だった。
「兵を集めてくれ。
ディエゴとジョルジャを逮捕してくれ」
「抵抗されたらどういたしましょうか?」
マッテオは心の中でホッと一息ついた。
ようやく決断して下さったと安堵した。
同時に不安もあった。
だから確認したのだ。
殺していいと言って欲しかった。
心からその言葉を期待していた。
「殺さずに逮捕しろ。
まだ皇太子と皇后なのだ。
正式な裁判を終えなければ、死刑にはできない。
正式な裁判の上で罪状を決める。
それまでは離宮に幽閉しておくのだ」
「恐れながら申し上げます。
ディエゴ様とジョルジャ様は大きな力を持っておられます。
ここで対応を誤れば、陛下の御命に係わるかもしれません!」
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