第18話

「伯父さん、疲れたよ。

 ちょっと休んでもいい?」


「ああ、いいぞ。

 魔法防御をかけるから休んでいろ」


 勝人は竜であろうと破壊できない魔法の壁で蓮を囲い守った。

 今まで蓮に狩らせていた黒蟻を見てほんの少し思案する。

 黒蟻は地球でいう軍隊蟻に近い。

 地球の軍隊蟻はわずか二センチ弱の大きさなのに、自分よりはるかに大きい昆虫や爬虫類や鳥類を狩る。

 いや、病気で動けないような場合には、牛や馬など大型動物も食い殺すような激しい狩りを行うのだ。


 今目の前にいる黒蟻は、二センチ弱どころか五十センチもの大きさがある。

 そいつらが地球の軍隊蟻同様に数百万匹の群れを作って襲ってくるのだ。

 歴史上多くの国を滅ぼし、動植物を絶滅させてきた、滅びの魔蟲なのだ。

 絶対に見過ごせない魔蟲なのだ。


 だが、勝人の防御魔法や防具なら何の問題もない。

 一切攻撃を受け付けない。

 無双状態でレベルアップができる。

 だから蓮にはちょうどいい敵なので、勝人は間引くかどうか迷ったのだ。


 だが迷いは一瞬だった。

 黒蟻を人間の領域に近づけるわけにはいかない。

 半数どころか九割を狩っても、蓮の練習には十分な数だと考えたのだ。

 蓮にレベルアップ重視の効率的な狩りをさせるには、群れを作る魔物がちょうどいいのだが、過保護な勝人は蓮に人型を狩らせないことにしていた。


 黒蟻を数十万狩ることができたら、下手な魔獣や人型を飛ばして、一気に亜竜種の鉤竜を狩ることができる。

 そうすれば蓮に心理的な負担をかけなくてすむと決断したのだ。

 勝人は魔法を使わず、薙刀を手に黒蟻の群れに突っ込んでいった。

 眼にも止まらぬ速さで黒蟻を次々と一刀両断にしていった。


 勝人は黒蟻の外骨格の切れ目に刃を喰いこませ、スパスパと斃していった。

 斃す端から魔法袋に収納した。

 単価は亜竜種や高価格帯の魔獣や魔蟲には劣るが、中価格帯で買い取ってもらえる獲物の中では、断トツに大量狩りができるからだ。


 黒蟻の外骨格は甲蟲種より硬度は低いが、いい小札鎧の素材になる。

 少なくとも頭部や胸部や脚部は鋼鉄の小札鎧よりも防御力が高い。

 腹部の柔らかいところも、柔皮鎧の材料になる。

 顎部の牙に関しては、ナイフの素材にもなるのだ。


 だが一番需要が多いのは、身の部分だ。

 頭部や胸部は丁寧に解体すると、少し風味の落ちる蟹の味がするところと、白身魚の味がするところや、エビの味がするところに分けられる。

 腹部には蜂蜜やのような蟻蜜と呼ばれる甘い液体を貯めている所と、酢や柑橘果汁のような酸っぱい味がする液体を貯めているところがある。


 食材として中級価格帯で売ることができるし、酢や果汁の代わりに調味料として売ることもできる。

 甘味が少ないこの世界では、蟻蜜は高価格帯で売ることが可能で、とてもよい獲物なのだ。

 それが数百万匹もいるのだから、冒険者の立場なら笑いが止まらないのだ。

 

 

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