第17話

「分かった!

 分かったから魔法袋に納めてくれ。

 これ以上は心臓に悪い。

 毎日競売を開催する。

 それでいのだな?」


「いいえ、毎日競売を開催すると知られると、買い手が金を出し渋ります。

 疑うわけではありませんが、侯爵閣下の家臣が情報を漏らすと、最低落札額ギリギリで落とされる可能性すらあります。

 おっと、お待ちください。

 閣下が家臣や召使を信じたい気持ちは分かります。

 分かりますが、額が額なのですよ。

 鉤竜でも最低で二十万小銅貨。

 禽竜なら最低でも八千万小銅貨になるのです。

 本気で競り合った時の金額と、談合した時の金額差は、殺し合いの起こる額です。

 私の領地でも、勇者様達の領地でも、何度も談合が繰り返されています。

 勇者様が確認して召し抱えた家臣や召使さえ、勇者様を裏切るのです」


「分かった。

 だったらどうしろというのだ?」


「人払いをお願いします」


 モスコー侯爵はもはや勝人の言いなりだった。

 鉤竜と禽竜を目の前に積み上げられ、誇りも矜持も吹き飛んでしまった。

 逆らって怒らせたら、モスコー侯爵家など簡単に滅ぼされてしまうと理解し、生き残るために言いなりになると覚悟したのだ。

 貴族なら権力と戦力をもった王や貴族に頭を下げることには慣れていたのだ。

 表向きは騎士だと名乗っているが、勝人がただの騎士でないのは分かっていた。

 恐らく異世界から召喚された勇者であろう勝人に逆らうほど、モスコー侯爵は馬鹿でも愚かでもなかったのだ。


 それに領主としての強かな計算もあった。

 勝人に何か事情があるのだと思った。

 甥を鍛えたいというのが、本当の理由かどうかは分からなかったが、自分の領地ではなくモスコー侯爵領で亜竜を売ってくれるのは間違いないのだ。

 それによってもたらされる利益は、恐ろしく莫大なモノになる。

 それがたとえ一時的なモノであろうと、見せてもらえた亜竜と魔獣を全て競売で売ることができたら、モスコー侯爵領数十年分の純利益に匹敵する。

 それだけの利益が備蓄できれば、近隣領地を圧倒できる。


 勝人が黙認してくれるかどうかは分からないが、亜竜の素材から作った武器や防具を自軍将兵に貸与できれば、近隣領を併合できるかもしれないと、モスコー侯爵は密かに考えていた。


「今から競売を開催します。

 最初に断っておきますが、談合の疑いが出た時点で競売は中止されます。

 そして領主のモスコー侯爵閣下はもちろん、鉤竜と禽竜を狩った騎士様が、不正を行おうとしたモノたちに報復されます。

 談合に参加した方々個人の命と財産はもちろん、一族の方々の命と財産も奪われますから、そのことは覚悟しておいてください。

 分かっておられるでしょうが、鉤竜と禽竜を狩れるような騎士様と争いたい王家も貴族もいませんよ。

 今までどれだけ親密に付き合っていたとしても、簡単に切り捨てられますよ。

 分かっておられますよね?!」


 司会者の脅しに、参加者の半数が死人のような真っ白な顔色になった。

 勝人がモスコー侯爵に指示した脅し文句だった。

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