第15話

「カーツ殿。

 一度に五頭の鉤竜を競売にだしてもらえるだろうか?」


「ああ、構いませんよ。

 ただ組合長を通じてお伝えしているように、最低落札価格に届かなければ、自領にもちかえります。

 あちらには加工職人も販売網もありますから」


「分かっています。

 それで構いません。

 では各地の大商人を集めるのにどうしても十日ほどかかるので、十日後という事でよろしかな?」


「結構です、侯爵閣下」


 随分と下手にでてくれる。

 それだけ強かで世情に通じているという事だから、油断ならない。

 まあ俺には俺の都合があるように、侯爵にも侯爵の都合があるのだろう。

 油断のならない世界だから、少しでも領地を富ませ、戦力を整える。

 それがよい領主という世界だ。


「それと、亜竜種以外にも魔獣を狩っているのですが、どれくらい売り出していいのですか?

 あまり量を売ると、領内の産業を圧迫してしまいます。

 侯爵閣下に隔意などないですから、その辺も話し合いたいのです」


「ほお、それほど魔獣を狩られたのですか?

 亜竜種も定期的に狩るという話でしたが?」


 興味はあるようだな。

 それに、俺が大量の魔獣や獣を急激に売りだせば、領内の予備戦力である冒険者の生活が立ち行かなくなって、領地が荒れることも理解している。

 いや、冒険者だけじゃない。

 農業の傍ら、兼業で細々と畜産をしている領民の生活を直撃する。

 それが引き金になって、領地が崩壊することもあり得るのだ。


「私個人はそうなのですが、こちらに滞在させていただくのは、甥の実戦訓練が主たる目的なのです。

 自領内では甘えが出てしまいますので、他領で命懸けの実戦訓練をさせるのです。

 ただまだ甥では亜竜種を狩るのは難しいので、魔獣となってしまいます」


「そうですなぁ。

 競売にかけたり、売り払う前に、冒険者組合を通して報告してもらえるとたすかるのだが、いかがだろうか?」


「承りました。

 今宵は謁見の名誉を賜りましたので、直接獲物をお見せしたいのですが、いかがでしょうか?」


「おお、それは楽しみですな。

 広い場所が必要ですかな?

 だったら広間か庭という事になりますが?」


 俺を試しているのか?

 確かに初見の相手の言う事を鵜呑みにはできないだろう。

 俺が侯爵を狙う刺客という可能性もある。

 本当に広間や庭が必要なほど狩ったのかという疑問を持って、挑発している可能性もある。


 まあいい。

 どちらにしても実力は見せておいた方がいい。

 問題は何をどれだけ見せるかだが、庭なら禽竜と腕龍も披露できるな。

 威嚇しておくなら禽竜と腕龍を見せておくべきか?

 徐々に大物を見せて、もういいと言うまで見せつけるのも手だな。

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