第13話鉤竜
「親父、結構大きいのも狩れたんだが、よく考えたら、この都市で大きい亜竜を正当に競り落とせる貴族も商人もいなんじゃないのか?」
「……はい、恐らくそうなると思います」
「だからこいつを狩ってきた。
鉤竜の大きい奴だが、こいつなら百キログラムくらいだから、二十万小銅貨くらいになるんじゃないか?
二十万小銅貨くらいならここの領主や商人でも買えるんじゃないか?」
俺は日本のデイノニクスに似た肉食の亜竜を親父の前に出した。
全長が三・五メートルほどだから、尻尾を考えればそれほど場所を取るわけでもないので、何とか親父の店でもだすことができた。
「本当に狩られたんですか!
信じられない!
まさか、勇者様なんですか?!
異世界の勇者様がこの都市に来てくださったんですか?!」
「それは言えない。
俺が異世界の勇者だろう、この世界の騎士だろうと関係ない。
親父にこの亜竜の売り先を探し出せるかどうかだ」
勝人はあえて自分の正体をはっきりさせなかった。
はっきりさせない方が安全だと判断したからだ。
異世界から来た勇者と言い切れば、この世界の王や領主はもちろん、犯罪者組合も正面から敵対しようとはしない。
だが同時に、搦手から取り込もうとうとする。
特に子供の蓮に対する勧誘は激しくなる。
一番使われるのは色仕掛けだ。
俗にいうハニートラップで蓮を籠絡しようとするだろう。
勝人はそれを恐れたのだ。
正体を明らかにしなければ、勝人と蓮がこの世界の騎士だという可能性もある。
その場合下手に引き抜きすれば、国や領主間の戦争に発展しかねない。
一度どこかで大規模な戦争が起これば、当事者の国や貴族は著しく戦力と経済力を低下させることになる。
それを見逃すほどこの世界の王や貴族は甘くない。
漁夫の利と表現すべきか、それとも水に落ちた犬は叩けと表現すべきか、評価は難しいが確実に攻め込んでくる。
だから争いを起こすときは確実に勝てる時に限られた。
それも周辺の状況を見極めて、戦後に損耗した戦力と経済力でも、周囲の王国や貴族が攻め込んでこないことが確信できる場合に限られるのだ。
勝人はこの世界が気に入っていた。
普段口にも態度にも現さないが、大好きだと言ってもいいくらい気に入っていた。
だがら無暗に戦争を引き起こし、民が苦しむような状況を創り出したくなかった。
「売ります。
必ず騎士様が納得する値段で買う買い手を探します。
ですからちょっと待っていただけませんか?
競売をかけるにしても、冒険者組合と商人組合に話を通して、領主様に許可を取ってもらった方が、競り値が高くなると思うんです。
今から冒険者組合と商人組合に行って話をつけてきます」
「分かった。
俺も同行しよう」
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