第12話禽竜と腕龍

 一番目についたのは禽竜だった。

 日本に居る時に恐竜図鑑でみたイグアノドンに似ていると思う。

 体重というか、狩った後で値段を決める時に計る重さは、成体で三トン前後で、全長は九メートルだ。

 もっとも雌雄でも違えば個体差もあるので、二トンの禽竜もいるし四トンの禽竜もいるから、大まかな販売単価は一キログラム幾らという基準がある。


 だが、亜竜種は勇者以外が狩る事は実質不可能な魔獣だ。

 普通は魔獣には含まず竜種として別扱いされるほどだから、全て競売にかけられ、もっとも大金を払った者が手に入れる。

 皮や牙や爪といった分かり易い素材だけではなく、血も内臓も、肉も脂も魔獣とは比較にならない高単価で買い取られる。

 実際に使う個人が買う時の末端価格は更に高単価になるので、利益を得たい商人や貴族が思い切った投資をするのだ。


 一番身近な動物である羊が一頭二千小銅貨。

 一番身近な食用の羊肉が一キログラム十九小銅貨。

 禽竜なら一竜八千万小銅貨を下回る事はない。

 加工され商品にされたり、高級食材として小分けにして売られる末端価格では、流通費用や加工賃や利益が加味され、三億小銅貨の経済効果がある。

 この世界の三億小銅貨は、乱暴な計算をすれば日本では三百億円に相当する。

 一万人前後しか住人のいない貧しい中世の都市に、一夜にして三百億の経済効果がもたらされるのだ。

 その影響力がいかに絶大な事なのか分かるだろう。


 だが勝人は禽竜だけではインパクトが弱いかもしれないと考えていた。

 圧倒的な力を示すなら、あまりの巨体から龍種と誤解されている、腕龍を狩ることも考えていた。

 最初から腕龍を出す気はないが、禽竜で立場を確立できなかった時には、腕龍をだせばいいと考えたのだ。


 腕龍は禽竜と同じ地竜種だが、身体が大きく成体だと七十トンに達する竜も多い。

 地球の恐竜図鑑と比較するとブラキオサウルスが一番近く、成体の全長は二十五メートルを超え、地球出身の勇者でも狩るのが難しい強大な亜竜だ。

 狩るのが難しいだけに、買取単価も禽竜の倍以上する。

 時には三倍に達する事もある。


 四トンの禽竜ですら八千万小銅貨以上の高値で競売にかけられるのだ。

 単価三倍の腕龍は七十トンの重さがあるから、四十二億小銅貨くらいで競売にかけられるのが妥当なのだが、問題は一万人程度の人口の領都で、腕龍を正当な価格で競り落とせる貴族や商人がいるかどうかだと、勝人はハタと気が付いた。

 そこで勝人は、この都市の貴族や商人でも正当な値段で購入できる小型の亜竜種から狩り、その亜竜種を定期的に狩り、竜を欲する大商人を集めてから禽竜や腕龍を売りに出す事を考えた。


 

 

 

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