第10話

「一旦家に帰るぞ」


「……まだやれるよ」


「このままここで泊まったら、寝てる間に誘拐犯に襲われるかもしれないんだぞ。

 宿屋の主人が、誘拐犯に手先かもしれないんだぞ。

 ここは異世界で日本じゃないんだ。

 日本でも子供が誘拐されるニュースは耳にしているだろ?

 こっちはもっと酷いんだぞ!

 毎日日本に帰って、安全な家でしっかりと寝る!

 分かったな!」


「……分かった」


 実際には、もう蓮は限界だった。

 小学生高学年では、睡魔に勝てるはずもない。

 すぐに頭がガックリと落ちて寝てしまった。

 勝人は蓮を背負って日本に戻った。

 弟の家まで背負って行き、ゲーム疲れで寝落ちしたと嘘をついて弟夫婦に渡した。


 蓮という足枷のなくなった勝人は、再び都市に戻って親父に角兎百羽の買取を頼んだが、親父は普通の買取価格と上限の半ばを提示した。

 勝人は値上げ交渉をせずにその価格を受け入れた。


 総額二万二千五百小銅貨なので、金貨二枚大銀貨二枚小銀貨五枚の支払いになるのだが、冒険者相手の場末の商人が金貨など持っていない。

 そもそも二万二千五百小銅貨を持っているはずもない。

 いや、なくはないのだが、一人の冒険者から同じ魔獣だけを買い取るのは、全部売りさばけるかどうかのリスクがあるので、普通は買取を拒否する。


「親父、金は角兎が売れてからでもいいから、その代わりこの辺で一番強い魔獣を教えてくれ」


「……いえ大丈夫です。

 私も店を持つ商人です。

 これくらいの数を売れないようでは、店舗持ち商人とは言えません。

 大銀貨と小銀貨になってしまいますが、受け取ってください」


「分かった。

 受け取らせてもらおう。

 その代わりと言っては何だが、狩って欲しい獲物はいるのか?」


「私の望む魔獣を狩ってくださるというのですか?

 何故でございます。

 甥御様の件でしたら、先ほど多めに儲けさせていただいていますが?」


「恩を売っておいて、いざという時に融通を利かせてもらうためだ。

 この都市には俺の伝手がないから、親父の伝手を使わせてもらいたい」


「何故私なんですか?

 この都市には結構多くの商店があります。

 冒険者組合の方が安心できるますし、伝手も領主様にまで及びますが?」


「勘だな。

 冒険者が生き延びるには、正確な情報が一番だが、その情報をどれほど沢山積み上げても、最後の最後は勘に頼る時がある。

 俺はその勘の御陰で今日まで生き延びてこられた。

 その勘が、親父と縁を結べと囁くのさ」


「勘、ですか……

 あやふやですが、切り捨てることのできない感覚ですな。

 ですがそう言われても鵜呑みにはできません。

 もっとも、そのうえで利益を手にする機会を見逃しはしません。

 ではお願いしましょうか」

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