第7話

「親父、スライムを買いとってくれ」


「騎士様。

 スライムは大変安くなっておりまして、十匹で小銅貨一枚となっております」


「えぇぇぇぇ!

 そんなに安いの!」


「黙っていろ!

 命の値段はお前が思っているより安いんだ!

 だからこそ遊び半分で殺していいモノじゃない。

 お前の鍛錬のためのスライムを選んだが、本来はもっと実力と装備にあった魔物を斃すモノだ」


 蓮も叱られた当初は反省していたのだが、スライムを相手に選んだのは勝人とだと思うと、何かムクムクと反感が生まれていたのだ。

 小学生の高学年だから、反抗期というべきかもしれない。


「騎士様、それでどうされますか?」


「この規模の都市だと、スライムはいつも不足しているのではないか?

 特に貧民はスライムで飢えをしのいでいるのだろう?

 鮮度の落ちたスライムは鶏や豚の餌にしているのだろう?

 十匹小銅貨一枚ではなく、七匹小銅貨一枚が上限であろう。

 千ほどあるから大口相手に売ることも可能だ。

 ここは七匹小銅貨一枚で買い取っておけ」


「立派な騎士様とも思えない商売上手でございますね」


「嫌味を言うな。

 全ては甥を鍛えるためだ。

 冒険者として実戦訓練を重ねるから、小銅貨一枚が足らずに薬が買えず、死んでしまうこともある。

 商人相手の交渉も教えておかねばならん」


「へぇぇぇぇ!

 騎士様は冒険者の経験もおありなんですかい?」


「ああ、嫌というほどあるぞ。

 しばらくはこの都市を根城に実戦訓練をする。

 親父の店に優先的に獲物を売ってやる。

 だから今回は七匹を小銅貨一枚で買え」


「現物を見せていただけますか?」


「ああいいぞ、これだ」


「鮮度が落ちていませんね!

 魔法袋ですか?

 身なりといい、お持ちの魔道具といい、さぞ名のある冒険者だったのでしょうね?

 お名前をお聞かせいただけませんか?」


「余計な詮索は命を失うことになるぞ!」


「へい!

 申し訳ありません。

 もう何も聞きませんので、お許しください」


 蓮は勝人と親父の会話を唖然と聞いていた。

 普段の伯父とは全く違う性格だったからだ。

 それと同時に、日本での定価売買というモノが、異世界では通用しないというのもなんとなくわかった。

 知識がないと騙されるのだ。


 自分も伯父も騎士の格好をしているから、相手は下手のでてくれる。

 しかし、それでも、なんでも正直に言ってくれるとは限らないのだ。

 満面の笑みで敬語を使いながら、騙してやろうと虎視眈々と狙っているのだ。

 蓮は異世界の人間が少し怖くなった。


「蓮、首を動かすな!

 首を動かさずに眼だけを動かせ。

 分かったか?」


「分かったよ、なんなんだよ!」


「左に視線を動かして、二つ目の路地にいる男が分かるか?」


「分かるよ。

 顔に傷がある男だろ?」


「お前を誘拐しようとしている、犯罪者組合の奴だ」

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