第5話

「すごい、すごい、すごい!

 サクサク殺せるよ!」


「当たり前だ!

 聖剣を使ってるんだ。

 ど素人の子供でも、当たりさえすればスライムくらいは斃せる。

 いや、当たらなくても聖なる光で斃せるよ。

 だが敵がちょっとでも強いと、今の蓮では絶対に勝てないからな。

 調子に乗るんじゃないぞ!」


「そんなことわかっているよ。

 ところでいつレベルアップするの?

 レベルアップしたら強くなるの?」


「……レベルアップはある。

 もう既にレベルアップしている。

 レベルアップしたら能力が高くなる。

 能力が高くなったら強くなるが、その前に技を覚えろ」


「えぇぇぇぇ、面倒だよ。

 このままでも斃せてるじゃん。

 だったらこのままでいいじゃん」


「蓮は凛ちゃんを護りたいんじゃないのか?

 蓮は凛ちゃんを護りたい想いはその程度なのか?

 それともあれは嘘だったのか?」


「うそじゃない!

 うそじゃないよ!

 僕が強くなって凛ちゃんを護るんだ!」


「だが努力するのは嫌なんだろ?

 武器も防具も貸してやった俺の言う事を聞かず、好き勝ってやりたいんだろ?

 それはな、助けたいのではない。

 助けようとしている自分が好きで、身勝手なだけだ。

 その程度の助けるは、自分に見返りなければ簡単に前言を翻して、口約束はなかったことにして投げ捨てる、人間の屑のやることだ。

 蓮はどっちなんだ?

 どんな人間になりたいんだ?」


「……分かった。

 やる。

 教えて」


 蓮が一応心を入れ替えたように見えたので、勝人は武術を教えだした。

 普通なら何年何十年も鍛錬が必要だが、レベルアップという地球では考えられない常識があるため、基礎体力の訓練が全く必要ない。

 型さえ覚えればいいので、地球に比べたら簡単に強くなれる。

 スライムを斃すのを型を覚える実戦訓練とした。


 もっとも、心の鍛錬が全く行われないので、異世界に召喚された地球人のなかに、漫画やアニメにいる暴君のようになるモノも多かった。

 同時にヒーローに憧れて、地球人暴君を斃そうとする者もいた。

 召喚された地球人同士が戦い、異世界人が巻き込まれて死ぬ状況が多くあった。

 な中には勝人のような、我関せずと言う人間も一定数いた。


 勝人が心配しているのは、人型の敵を斃す時の事だ。

 蓮はゲームと同じだと考えているが全く違うのだ。

 獣や人型を斃せば血が流れるのだ。

 光って消えた死はしない。

 返り血がべっとりと自分の身体にこびりつくのだ。


 食料や素材を得るためには、逆さに吊って血抜きをしたり解体したりしなければいけないが、その時に糞尿も処理する必要がある。

 これが日本人には想像以上にきついのだ。

 さらに言えば、ほとんど人間と変わらない人型もいる、いや、人間が襲ってくることも多いのだ。


 そんな時、蓮は襲ってきた人間を殺せるのだろうか?

 その場は殺せたとして、PTSDの影響があるのではないのか?

 勝人はそれを心底心配していた。



 

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