第三ノ鍵・黒の夢の章
an Ancient Disaster
[0]黒の鍵がのぞむ世界
過去も未来もなく、地図も果てもない、どこまでも続く真白い空間。――
現世から弾きだされた魂がさまよい込む
「ばかばか、
「まったくだ。こんな手ひどい裏切りにあうなんて、私も悲しいよ……」
普段はペタリと寝た耳をピンといからせ、白毛の大きな尻尾を膨らませて、お怒りの白龍が先程からポカポカと腹の辺りを叩いてくる。少し離れた位置では、綿毛の敷き詰められたような地面に埋もれかけた黒い鳥族の子供が、これ見よがしにため息をついていた。
二人の怒りを向けられている当人、
「今回ばかりは、予期せぬ事態というやつだろう? イルマの元に『星龍の
「それを防ぐのが、
「妨害するつもりはないさ。白龍……それは、誓って言える」
今にも噛みつきそうな表情で牙をむく白龍の頭に、
現状、『
(当然、ではあるか。自分が造りだした世界を
せめて、
今のままでは、記憶の重さに耐えかねた心が『
「
思考に沈んでいる間に白龍はあきらめたのか姿を消して、子供姿の使い魔――セルフィードが足元まで来ていた。黒い瞳に責める色はないが、不満げなジト目は変わらない。
元々が冥海神の使い魔であったセルフィードとは、魔力の相性が
セステュの身体を完全支配する以外の方法で現世に干渉するには、魔力相性の良い身体と星属性の魔力が必要だったが、あの瞬間まるで出来すぎた
セルフィードには悪いことをしたが、人間であるセステュと比べれば起き得るリスクは考慮に値するほどでもなかった。こうなった以上、すべきことは決めている。
「今代の時の竜は、あれでいいだろう。
「おまえは……まだあきらめていないのか」
子供の姿に不似合いな、
「あきらめるも何も、私の目的ははじめから変わっていない。
「けれど、導きは必要だと言うのだろう?」
「導きと干渉は違う。
ふぅむ、と眉を下げて黙り込むセルフィードを眺めながら、ウィルダウは五百年前の
世界を創ったのは炎を統べる上位竜族だ。かれがいかなる手段で世界創造などという偉業を成し得たのか、ウィルダウには想像も及ばない。ここより外側にも無数の
すべてが狂いだしたのは、創世竜がこの
産まれ落ちた生命が生きようと望みあがくように、すでに多くの生命を
止まることなき
そういう経緯ゆえに世界は、銀竜を救う者として記憶したのだろう。
創世竜と銀竜の関係をウィルダウは知らないし、やはり知る必要のないことだと考えている。しかし、あの日に傷つき弱り果て、歪んだ
もしもかつての創世竜が世界の存続を本心から願ってくれたなら、
銀竜が果たそうとしている約束とは、そういうことなのだ。
白龍はそういう
それなのにクォームは過保護が過ぎ、人間たちが過去の罪と向き合い受け入れつつあるというに、肝心の
白龍は、銀竜がその
「
今の今まで黙考していたのか、セルフィードがふいに質問を返してきた。鋭い切り口に、彼が現在でも理解者なのだと再認識しつつ、ウィルダウは言葉を返す。
あらかじめ、用意していた答えを。
「思うはずがないだろう。今の神々に『神』を名乗る資格などない。役に立たない神々から
子供姿のセルフィードは、深いため息をこぼした。呆れたのかもしれないし、真意を見抜いたのかもしれない。
どちらだろうと構わなかった。
過去においてそうだったように、彼は今でもウィルダウにとっての数少ない理解者で、間違いなく信頼のおける友人だからだ。
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