第14話 力の意味と私達の目標

「ねぇミュール、スゥさん、あの村この後どうなると思う?」


キナラ村を出た一行は老人の言っていた近くの街へ向かうことにした。


「恐らく、いずれ商人の身内や他の取引先からの捜索要請があればあの村が怪しまれることもあると思われますわ」


「そうでしょうね。ですが証拠は残っていない様だったので、もしかすると大丈夫かも!……実際どうかは分かりませんが……」


「そっかー、まぁそうだよね。でも、これからどうするかはあの村の人達の自由だよね」


(もしかしたら何人かは他の人を庇って先に自白したりしそうだな……それなら子供達を守ることも出来るし)


「ふぅ……」


「ミサキ?眠いんですの?もしそうなら少し休みますか?」


「いや、眠くはないんだけど疲れた。心が疲れた。だから休んでミュールを抱きしめていい?」


「はぁっ!?ミ、ミサキ何を言ってますの!?」


(あ、ポロッと本音がでちゃった、まぁいいか……あれから何だかミュールを抱きしめたい欲が凄いんだよね……依存なのかなぁ)


「だめ?」


美咲はできる限り弱々しくミュールがするように小首を傾げて上目遣いで尋ねる。


「っ……い、いえ……ダメじゃないです……」


(なんですの!?なんですのっ…あの格好良いミサキがあんな仕草でわたくしを頼って……っ……なんででしょう……胸がきゅっとなりますわ……)


そのまま馬車を街道から逸らして少し木々が生える林に向けて進める。


(この2人に私は見えてるんでしょうか……)


そんなスゥを半ば置いてけぼりにして2人は木の根元に腰を下ろすと、美咲寝転がって、座ったミュールの太股の上に顔を乗せ、その体制のままぎゅっとその背中に腕を回して腹部で大きく息を吸った。素早い動き過ぎてミュールが抵抗出来ないまま。


「なっ……ミサキっ……スゥさんも見てっ……」


「んふー……もういいじゃん、抱きしめてるの見られてるし……ミュール暖かくて良い匂い……落ち着くー」


「あのぉ……気にはなっていたんですが……お二人はそういう関係で……?」


「いえいえ!そんな大それたものでは!」


(わたくしと美咲が?いやいやそんなの……しかし、では今のわたくしたちの関係は……?分からないですわ……)


「えぇ……まぁミュールさんがそう言うのなら」

渋々というよりも半ば諦めたスゥはそこで問いかけをやめた。


小一時間経っただろうか


「よし、ミュール分補給完了。今なら三日三晩寝ないで働き続けられるよ」


先程までのだらけきった体制と緩み切った顔を正してキリッとそう言うが、それを見ている2人は自分の中の格好良い美咲、への認識を少し改めたのだった。


◇◇◇


(はぁー!あぁ言ったけど本当に心が潤って元気回復!って感じ。街までは時間があるし気になること・・・・・・があるから色々振り返ってみようかな)


最初に美咲がこの不思議な力に気付いたのはミュールを助けた際。

その跳躍力の高さと落下衝撃の無効化だ。


次はボアノスとの戦闘でミュールを庇って突進を受けた際。

頭が恐ろしく早く状況を理解するのを感じた。そして何故か身体が再生した。


継いで木の上のミュールを守るために自分の身を犠牲にボアノスの突進を利用したゴブリンの撃破。

2度目のボアノスの突進は何故か牙が刺さった以外は無傷で、どうやら衝撃自体が無効化されているようだった。そしてその凄まじい速度でも目が追いつき、異常な腕力にゴブリンが吹き飛んだ。


その次はヴェノマとの戦闘。

自分よりもミュールを選んで戦闘と毒沼から遠ざけた。

ここでは毒沼なのに毒の影響を受けず、さらにその中でも息ができることに加えて陸と同じように動くことが出来た。そして力を入れると思った方向に瞬速で動けた。また、陸に上がった時の位置関係から、どうやらミュールを思ったより大分遠くに飛ばした様だった。


その次はちょっとしたことだが、見張り番をしてる時に眠らずに済み、更に集中すると周囲の状況がよく分かった。それから集中すればある程度周囲の確認が出来た。


そしてキナラ村ではミュールとスゥに被害が出ないように窓硝子を割った際には裂傷を負ったが、次にゼオルの部屋の窓に飛び込んだ時はほとんど傷がなかった。


ゼオルとの戦闘では彼の剣を咄嗟に持った槍で反撃してからは、まるでそれまで愛用していた武器のように槍を扱えるようになった。


(うん、やっぱりほとんどがミュールを庇って動いた時に起きてる。でも槍が使えるようになったのは……うーん、よく分かんないな……)


「うーむ……」


思わず唸って考え込む美咲。


「ミサキ?また疲れたから抱きしめたいなどと言い出すつもりですか?流石にもうしませんわよ!あんな風にされるとは思いませんでしたもの……」


少し顔を赤らめて頬をふくらませるミュール。


(可愛いなぁ……抱きしめたい……っととそれもいいけど……)


「いや、そうじゃなくて……自分で言うのもなんだけど私って異常じゃない?」


2人は頷きながら今更何を、といった様子だ。


「確かにミサキは大分奇妙な体質を持っていますが、それはわたくしを助けた最初からではないですか」


その言葉を待っていたとばかりに美咲は言う。


「そう!それなんだよ!今、これまで変な力を使った時を思い返してみたんだ。そしたら、ある共通点・・・があってさ」


「ーー殆どミュールを庇って何かしてた時じゃない?」


その言葉にミュールはハッとした


「ふむ……確かに……最初はわたくしを助けた時に、それからは戦闘が起こる度にミサキがわたくしを庇って目まぐるしく撃退して下さいましたね」


「えっと……ということはミサキさんはミュールさんを庇うと強くなる、ってことですか?」


「そんなわたくしに都合のいい変な能力あるわけが……」


「いや、私も初めはなんだそれはって思ったよ。でも考えれば考えるほどそうなんだよ……」


「ミサキは元の世界でもそのような力を少しでも感じたりしましたか?」


「いやいやっ……そんなこと出来てたらもっと暴れまくってストレス発散してたよ。むしろ無くて良かったとすら思うよ……何したかわかんないもん」


「……私さ、思ったんだ。この力は確かに凄いよ。凄いけど、でもゼオルを見て思ったんだ……大きな力は、振るう者の意思次第で凶器に変わる……だからそれに応じた大きな責任が必要だって。私は決して忘れない。彼を殺したことを……」


そう言って自分の手を見つめる美咲は、後悔とも自責の念とも戦っているような、それでいて決意に満ちたそんな表情をしていた。


「ミサキ……」


「大丈夫だよ。自分の中でもちゃんと納得して消化し切ってるんだ。だから心配しないで。これは乗り越えなきゃいけなかったんだ。そうじゃないと2人に危害が及んでたかもしれない。それを許すくらいなら私が何をしてでもその汚い手を振り払うよ」


そんな言葉にミュールは優しく語りかける。


「そんなに全部一人で背負い込まないでくださいな。

何の為にわたくし達がいると思っているんですか。ミサキがわたくし達を思って戦うなら、わたくし達はミサキを想って祈ります。

そしてその困難も苦悩も分かち合いたいと考えているんですよ……なんて勝手に思ってるのですがスゥさんはどうでしょう……?」


「私も同じですよ。ミュールさんの言う通りです。

私達に戦う力はありません……だからミサキさんに頼るしかないのは心苦しいです。

でも、だからと言って何も出来ないと諦めたくはないんです。私達だけでもいいから辛いこととか悩んでることとか話していいんです……少しずつ、のんびりでもいいんです。頼ることを覚えていってくださいっ!」


美咲は少し潤んだ目で言葉に詰まった。それでも言いたかった。


「っ……ありがとうっ!2人と出会えてよかった……私なんてまだまだだけどさ、これからも傍でよろしくお願いします……っ!」


◇◇◇


「わたくし達皆似たもの同士ですわね」


「急にどうしたの、ミュール」


「いえ……三人とも、自分だけでなんとかしようとして勝手に焦ってもがいて苦しんで……なんだか出会ったことが運命のようですわ」


「確かに、私もヤハト村の時もどうにかしなきゃ、私しかいないから、ここに居る意味を守らなくちゃって頑張って、頑張った先にボロボロになってました……そんな時に二人が来て下さったんです!なんだか本当に運命みたいですね!」


「そうだね。出会うべくして出会ったのかも。それに二人は私を強いって言ってくれるけどさ、本当は弱いんだよ。だから二人に支えられてる。お互いなんとか緩く生きていこうね」


「「はい!」」


三人がこうして意思を確かめ合ったところで、美咲は続けた。


「それでは、ここで私から言いたいことがあります」


何を言うつもりかとミュールとスゥはゴクリと固唾を飲んだ。美咲はいつだって突飛なのだから。

それでも全部受止めるつもりだからミュールは言う。


「はい、なんでも遠慮なく言ってくださいな」


「私も!どんとこいです!」


そう言ってくれる二人に安心して続ける。


「私とミュールはとりあえずグレイヴ王都から逃げるために何となくで先に進んでた。

そこでスゥさんと出会って旅に加わってもらった訳だけど、私達って特に何がしたいってのはなく漠然としてるでしょ?それに今までも何がしたいって自分からあんまり言ってこなかった人間だと思うんだ。

私は勝手に自分の殻に篭もったし、ミュールは立場がそうさせてくれなかった。スゥさんは両親に勧められるまま教会に入ってそのまま嫌な貴族に嵌められてあの村で必死に頑張った。

ということで……ちょっとここらで旅の目標を決めませんか」


「そうですわね。確かに目標のない旅だって楽しいですけど、何がやりたいことがあればやる気も出る気がします」


「それはいいですね!できれば三人がみんなしたいことで!」


「そうそう!スゥさんの言う通り。皆のやりたいことをやろう!ってことなの!それでーー」


「ーーさてさて、みんなは何がしたい?せーので言おうよっ」


(((みんな何を言うんだろう!)))


三人はワクワクしながら息を吸い込んだ。美咲の掛け声が響く。


「せーのっ」


「悪い奴らをボッコボコにしたい!」

「性根の腐った人達を正したい!」

「たくさんの人たちを助けたい!」


三者三様だけど心しか似たような声が重なる。三人はどこか嬉しげに顔を綻ばせながら互いを見る。


「ふふっ……はい決定!悪い奴らを正してたくさんの人を助ける!それが私達の旅の目標だー!」


「「おー!」」


3人の旅は新たに目標を携えて進み出すのだった。

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