第8話 改竄

 皇祖神 天照大神は 自らの孫 ニニギを地上に降下させるに際し、その土地の王 大国主に国を譲るよう迫っている(「大国主の国譲り」「天孫降臨」)。

 この話の中で、天照大神を持統女帝(第41代)、天孫ニニギを持統の孫 文武天皇(第42代)に比定し、地上の王 大国主に誰が当てはまるかを検討すると、かの神に相応しいのは 天武の長子 高市皇子。実に かの人物の薨去後(696年)、祖母持統から文武への皇位継承が実現していた(697年)。

 しかして、かの大国主の血脈は、荒ぶる神 スサノオの子(『日本書紀』)。このことからも、"スサノオ=天武天皇"が導かれた。


 持統女帝(第41代)

  ‖——⬜︎—— 文武天皇(第42代)

 天武天皇(第40代)— 高市皇子


 天照大神

  ‖——⬜︎—— 天孫 ニニギ

 スサノオ — 大国主


 荒ぶる神 スサノオは天界で大暴れし 天から追放されているが、天武天皇が命令した史書において そのような投射がなされていることが私には信じられなかった。

 だが、天武天皇の崩御後(686年)、正史『日本書紀』の完成(720年)までには30年以上の期間を要していた。だとすると、

 完成した歴史書において、最高神とされているのは 天武の次代 持統女帝であり、かの女帝のところで正史『日本書紀』は締め括られていた。中国の歴史書などにおいて、最後を飾るのは旧王朝の最後の王あるいは新王朝の初代だった。

 ちなみに、『日本書紀』の次の正史『続日本紀』は桓武天皇(第50代)が命じ 編纂されたが、かの天皇の在位中に かの天皇の記述ところで終わっている。


 女傑 持統女帝は 天武天皇の皇后であったが、天武の兄とされる天智天皇の娘であり、壬申の乱の敗者 大友皇子の姉だった。英雄 天武天皇は 一部で その素姓が疑われているが、それが事実であったとすれば、ここでがあったことが想定される。

 されども、天智天皇の娘である持統女帝が天武の跡を継げば どうだろう。女系だとは言え、正統な天皇家の血(たも)たれるではないか? "持統"があくまで自らの直系の血脈に拘ったのは、かような理由があったからだと推測されている。

 なお、おくりなというのは 生前の事績に基づいて贈られている。


 天武天皇は その素姓から次代 持統女帝から暗に否定されていたであろうことがこれまでの話から窺える。ひょっとすると、正史『日本書紀』が反蘇我の書物であるというのは、天武ではなく 正史を改変した持統の意向であり、もしかしたら、そこに 天武の本当の素姓が隠されているのかもしれない。

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