Episode 28.Monologue
休み明けの月曜日、我輩は大人しく学校に登校しました。
今日も多々良先生の授業を真面目に受けて、放課後になるのを待ちます。姉御と青海殿とで、ゲームセンターに行く約束をしているのです。きっと今の我輩はそわそわしていて、落ち着かない態度をしていることだろうと思います。
聞くところによると、この日のために青海殿たちには多大な迷惑をかけてしまったようです。あまり深くは話してくれませんでしたが、きっと我輩では想像しきれない程に大変だったことでしょう。
しかし、それで申し訳ない態度をしていては、苦労した人たちに失礼と言うものであります。せめて青海殿たちの前では、気丈に明るく振る舞おうと思います。
やっと放課後になり約束の場所へ行こうとすると、思わぬ人が声をかけてきました。
「どこ行くのー?」
クラスメイトの信濃梅殿です。正規の籠っていないジト目は、何か良からぬことを考えていそうでした。ゲームセンターに行くと言えば、どこかで秘密を漏らしてしまいそうなので、あえて嘘を吐きます。
「家に帰るだけであります」
「ふーん」
「いつも一緒にいる鶯谷殿はいないでありますか?」
鶯谷桜(うぐいすだにさくら)殿は面倒見が良く、信濃殿の友達です。彼女がいれば信濃殿の奇行を制御できるのですが……。
「部活ー」
「そ、そうでありますか。では、これにて。また明日」
「バイバーイ」
一体なんだったのでありましょうか? まぁ、普通にしていれば害は無いはず。早くゲームセンターへ行こう。
しかし、学校の敷地外に出ても、信濃殿は後ろからついて来ます。隠れるわけでもなく堂々としているので、気になって仕方ありません。どうしても我慢できず、自分から声をかけてしまいました。
「どうかしたでありますか?」
「なんでもなーい」
「そ、そうでありますか……」
あれで誤魔化している気になっているのなら、腸が煮えくり返ってしまいそうであります……。素っ気ない態度をとるのなら、こちらにも考えがあるという所を見せましょう。
我輩は曲がり角で思い切りダッシュしました。信濃殿の追尾を振り切るためです。校舎を一周するような形になってしまいましたが、どうやら撒けたようです。まさか、同じ場所に戻っているとは、露にも思わなかったことでしょう。我輩の作戦勝ちです。
「鼠田椋」
名前を呼ばれて振り返ると、担任の多々良先生がいました。この人が相手では逃げるわけにもいきません。
「ゲームセンターへ行くのですか?」
「い、いえっ! その……」
「隠さなくてもよろしいです。本来ならば寄り道してはいけないのですが、私が保護者として同伴しましょう」
「仕事はいいのでありますか?」
「私は定時で帰れる優秀な教師です。問題ない」
定時が何時かは分かりませんけど、ゲームセンターに行けるのならばなんだっていいです。クラス担任が話の分かる多々良先生で、本当に良かったと思います。
「先生……ゲエエェッ!」
率先して前へ歩こうとする多々良先生の背中には、信濃梅殿が貼りついていました。驚いて腰を抜かしてしまいそうになりましたが、見下ろすジト目が無性に腹立たしかったため、なんとか踏み止まります。
「どうしたのですか? 早く来なさい」
「は、はい……」
先生は妖怪小泣き爺に気づいていないのでしょうか? それだけが不可解であります。
「なんだか肩が重いですね?」
恐ろしい子ッ!
× ×
休み明けの月曜日。あたしは気配を殺して学校へ登校していた。機嫌の良さを隠すためである。もしも指摘されたら恥ずかしい。……とはいえ、誰もあたしのことなんて見るわけないけど。
今日も目立たず騒がず、黙って放課後になるのを待つ。青海とネズミで、ゲームセンターに行く約束をしているのだ。浮かれて口角を上げないよう、気を引き締める。
あの事件の後、プロミスキャストはどうなったかというと、特に何も変わらなかった。少し鎮静化しただけで、またいつ何が起こるか分からない。
しかし、ここでサイトを消すよりかは、あたしが監視できるようにした方がいいだろう。プロミスキャストを消したところで、また新しい交流の場が増えるだけ。それなら、あたしが責任を持って指針を示す。いつか修正されることを信じて。
教室と一体化する置物のように授業を受けていると、やっと放課後の時間になった。背伸びしたい気分を抑え、さっさと教室から出る。
下駄箱で靴を履き変えているその途中で、珍しい人と出くわした。
「よう」
「ご無沙汰してます」
柏倉琥珀。知り合ったのは短い期間であったにもかかわらず、学校が同じということで親しくなった。彼女はプラチナブロンドという派手な外見をしている上に、一つ年上であるため、親しくする距離感が難しい。
「歩きながらでいいからよ、ちょいと世間話していかねーか?」
「いいですよ」
本当は一緒に歩くと目立って嫌なのだが、下手に断って波風を立てるよりかはマシだ。彼女と一緒に下校する。
「彼氏とはどうなってんの?」
「彼氏じゃありません」
「あ、もしかしてデートか?」
「違います」
まるでオッサンのような遠慮のない質問である。そりゃあ、あたしだってなんとかしたいとは思っているけど……。
「頬が赤く染まってるぞ」
ハッとし、急いで顔を手で隠す。
「うっそー」
ギャハギャハギャハ!
高笑いしている口に弁当箱を突っ込みたくなる衝動を堪え、なんとか心を落ち着かせる。平常心、平常心。相手のペースに惑わされては駄目よ。
「悪い、悪い。そう怒るなって」
「怒ってません」
そもそも、全部あいつのせいだ。ずっと傍にさえいてくれれば、何も困ることがなかったのに……。
「「「あ」」」
大通りへと出るT字路で、ばったり水面さんと出会う。調子が狂うと、不運が重なってしまうようだ。
最初に柏倉さんが静寂を破いた。
「どっかで会ったような気がするなぁ……」
「奇遇だな。私もそんな気がする」
物怖じせず、水面さんは淡々と応答する。
この二人は直接会話したわけではないが、夜の街で会ったことがあるはずだ。しかし、それを言っていいのか分からないため、とりあえず関係ないフリをした。
「二人は知り合いですか?」
「知り合いっつーか、その制服はもしや、東高の生徒会長か?」
「そうだが、お前は朝芽の風紀委員長だな?」
あの時とは違う場所で、二人は見かけたことがあるらしい。というか、柏倉さんが風紀委員長だったことに驚きである。カラーギャングと対極の立場でしょうが。
「……お前が知らなかったって顔してんじゃねぇ。お前は周りが見えているようで、全く見えてねーんだよ」
くっ、的を射ているため何も言い返せない。これ以上は面倒なので、さっさとこの場から逃げることにする。
「お知り合いとは偶然ですね。では、あたしはこれで……」
帰りますね、と言う前に水面さんに呼び止められた。
「待て。どこに行くつもりだ? ……とは聞かなくても分かる。ゲームセンターだろう? 私も行くぞ」
なんという、あからさまな……。だけど、ここで挑発に乗るようなあたしじゃない。適当に受け流してみせる。
「いえ、あたしは書店に寄って、楽しみにしていた本を買う予定です」
「飯妻が行く行かないにかかわらず、私は行く予定だったからいいけどな。じゃ、一人でジャスコでもドンキでも勝手に行ってくれ」
「面白そうだ。アタイもゲーセンに行くぜ」
水面さんだけならず、柏倉さんまで来ることになってしまった。あたしを置いて、ずんずん先へ行ってしまう。
「もうっ!」
せっかくの遊ぶ約束だというのに、これでは気が休まりそうにない。文句を言うのは後回しにし、あたしは後を追いかけた。
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