第3話 『情景描写』 感情の夜明け

少女が泣いている。


膝と膝の間に腰を落として、まるで腰に力が入らないかのように、顔を両手の平で覆って涙を流している。


足は半分ほど水に浸かっていて、水は永遠に広がっている。


水平線まで何も存在せず、その世界には少女しか存在しなかった。



辺りは暗く、夜闇が覆っている。



大きな満月が、青白い光を放っているが少女の泣き声に影響されたかの様に、黒雲が満月を隠す。


隠しきれていない一部の光が、青く、淡くあたりを照らし少女の奥の水面を水色に照らす。



雨は黒雲から降り注ぎ。

満月を中心として、覆い隠すように嵐が渦を巻く。



星は一欠片も光らず、月だけが天空を支配し空を黒雲から占領する。



水平線には、月明かりに照らされた、白い雲が存在しているが、黒い雲に追い出されるかの様に、遠のいていく。




雨は水面に当たる度に、水面を、揺らし荒らす。


けれど、月の青白い明かりはそれを宥めるかのように明るく照らす。



黒雲がほんの少しだけ途切れ、青白い光の帳が降ろされる。


白い無地のワンピース姿の少女は、光の帳に呼びかけられたかのように、ゆっくりと手を顔から離して、天を見上げた。



涙の跡のついた顔を気にすることもなく。

少女は、空へ笑い泣きのような顔をした。


そして。




そらの天候が変わっていく。


黒雲は回転していくように散らばり、虚空へと、溶けて消滅した。

月明かりは水面の波を宥めて落ち着け、少しずつ周囲に明るさが取り戻された。



やがて、蒼い月は沈み。





―――水平線から、太陽が登り始めた。




朝焼けの光によって、水面はキラキラと輝いた。


そこは、もう荒れてなどいなかった。

嵐は、過ぎ去ったのだった。

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