第13話

 「ステーキでした!」


 僕は、出来るだけ顔を真っ赤にして叫んだ。

 俯き息を止め、顔を上げて叫んでみた。

 ナッティーさんが、ポカーンとしている。


 「やだ、何その間違い。本当に食いしん坊ね」


 って、お腹を抱え笑い始めた。

 作戦は成功したけど、そこまで笑う?


 「ステーキがどうしたって?」

 「あ、おはようございます」


 エンゾさんと、クーホン班長だ。


 「なんだ。ステーキが食べたいのか。残念だがこの村にいる間は無理だな」

 「え! それって一年も?」


 クーホン班長の言葉に、軽く頭を叩かれたような衝撃を受けた。ずっと草を食べて生活するって事だよね?


 「あぁ。やっぱりお前のとこに任せると、この料理なんだな」

 「まあ、あれだ。調理スキル持ちがいないからな」

 「昨日、飲み過ぎたからちょうどいいか」


 そのやりとりをナッティーさんが、ちょっとむくれて見ていた。

 やはり調理スキルは一般的らしい。これは、僕が持ってないとまずいのではないだろうか。ゲームの設定にないスキルって作れるのかな。

 いやその前に、アイテムは機能するけど、この世界で創作ができるかどうかだ。もしオリジナルが出来ないとなれば、レシピを知らないと結局何も作れない事になる。

 早いうちに調べないと。


 その後、薬草汁を美味しく頂いた。

 草なのに、噛めばキャベツの様に少し甘みがあったり、味付けに使った草は塩味が効いていたのには驚いた。でもどうせなら、ちゃんとしたキャベツを食べたいなぁなんてわがままな事を考えたりして。


 「では、後をよろしく」

 「あぁ、任せておけ」


 エンゾ班は、朝食後村を出て行った。


 「そんじゃ、集会所に行くぞ」


 うん? 集会所? なんの集まりがあるんだ。


 ぞろぞろと僕らは集会所に向かう。村には、一応三つの出入り口がある。出入り口と言っても、門などなく道が木の柵より外にあるだけ。

 集会所は、僕らが入って来た道の傍にあり、奥に歩いて10分の所にあった。


 「こんちわ~」


 クーホン班長が、中へと入っていく。


 「あ、クーホンさん!」


 村人がクーホン班長を見て挨拶をしてきた。顔見知りらしい。きっと何度もこの村で仕事をしているんだ。


 「おぉ、モマさん。一年ぶり」


 一年ぶり!? もしかして一年交代でここに来ていたりするの?


 「新しい仲間が入った。スペランザだ。よろしく頼む」

 「あ、えーと、スペランザです。宜しくお願いします」


 紹介されて僕は、頭を下げた。


 「おぉ、そうかい。宜しく頼むよ。あの二人はいるかい?」

 「あぁ、来た来た」


 あの二人とは、ハチーユさんとセフーユさんだった。二人は、モマさんと軽く挨拶を交わすと、三人で集会所を出て行く。

 で、僕達は一体ここで何をするの?


 「まあ座れ」


 ナッティーさんとラチャさん、メランジュさんは、集会所に来ない。

 僕は、クーホンさんに勧められたので、丸太の椅子に座った。


 集会所は、丸太小屋のような感じ。だだっ広い空間に丸太の椅子がポンポンポンっと置いてあって、テーブルはなぜか壁によせてある。窓はそのテーブルの壁側にあり、結構大きい。昼間ならその窓だけで、室内は明るい。

 なぜか僕らは、向かい合って丸太の椅子に座っている。いや正確には、クーホン班長が隣に座ってこっちを向いたので、僕も向いたって感じ。


 「これからの生活について大まかに話す」

 「あ、はい」

 「俺らの仕事は、どちらかというと村人の手伝いだ。モンスター退治は、現れた時のみ」

 「そうなんですか」


 少しホッとした。ハンターなんて名のギルドだから毎日狩りに出かけるのかと思っていた。


 「で、あの二人はいつも畑仕事だ。残りの三人は、村の見回り。見回りと言っても困った事がないか見て回っている。そして俺は、ここ集会所に居て手伝ってほしいが訪ねて来る人がいたら、手伝いに行くんだ」

 「え? じゃ班長はずっとここにいるだけ?」

 「だけとはなんだ。三人もたまにここに来る。そして交代したりもする」

 「そうなんだ。じゃ僕もここで待ってればいいって事?」

 「そうだな。誰についてもいいぞ。その前に、何か聞きたい事はないか?」

 「聞きたい事って?」

 「何でもだ。ギルドの事とか俺の事とか」


 突然なんでそんな事を? もしかして何か怪しい行動を僕がしたとか?


 「そんなに構えるな。お金の事を知りたかったりしていただろう?」

 「え? あぁ。でもずっとクーホン班長と居れば、お金の心配いらないかなぁ。なんて……」

 「欲がないな、お前」


 クーホン班長が、いつも通りがはははと笑った。

 僕の勘繰りすぎなのかも。


 「まあ、お金は使う時に教えてやる。本当にないか?」

 「あ、じゃ、スキルの事を教えて下さい。調理スキルがないと料理が出来ないとか聞いたけど本当ですか」

 「うーん。絶対ないとダメって事ではないが、まずいのしか作れん。スキルがあって、はじめてまともに作れるんだ。料理に限らず全てにおいてな。だから戦闘もそういう技術を持っていなければ、モンスターとは戦えない」

 「そうだ。人には効かないみたいだったけど、クーホン班長はなんで戦えたの?」

 「うーん、そうだな。見て説明を聞いた方がわかりやすいか」


 そう言ってクーホン班長は、左手のブレスレッドに触れた。すると、スーッとハンター認定書が出て来て驚いた。この世界にも、こういうアイテムってあったのか。

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