第12話

 ぐつぐつぐつ。

 身支度を終えた僕らは、地下倉庫に行って朝ごはん用の薬草を取って来ると、湯で煮詰めていた。そう煮詰めるだけなので、眺める事しかする事がない。僕、必要?

 あ、そうだ。しっぽの事を聞こう。


 「あのさ、なんでみんなしっぽをしまってるの?」


 よく考えると、エンゾ班の人達もしっぽがなかった。


 「うん? そうか。これも覚えてないか。この国での法律で、しっぽを見せて外を歩いてはいけないってあるの。だから人間と違って、寝る時に着替える習慣があるのよね。私も最初慣れなくて。でも楽な服装に着替えて寝るのって寝やすいわよ」

 「………」


 なんだそれ。しっぽを出して寝る為に着替えて寝てるの?


 「あぁ。野外で寝泊まりの時はそのままだから」

 「あ、うん」


 一応聞いてよかったんだろうけど、してる事が一緒でも理由が違い過ぎる。


 「よし、できたぁ!」


 薬草を煮詰めていた鍋は、二つの班分だから大きいけど、できたぁって喜ぶほどの手間はかかってない。時間も10分煮たかなぁって感じ。味付けも、草だし。しょっぱい汁がでる草って何? 僕から見ると、全部雑草の様な草だったんだけど。


 「なーに?」

 「え?」


 僕は、ぶんぶんと首を横に振った。

 なんかナッティーさんって、鋭いと言うか僕の考えている事がわかっているようで怖い。


 「どうせ。料理じゃないって思ってるんでしょう」

 「えーと……」

 「仕方ないじゃない。人間だけどスキル持ってないんだから……」

 「スキル? え? 料理もスキルなの!? あ」


 つい、口に出しちゃった。

 やばいと両手で口を押えるも、遅いよね、うん。

 ジトーっとナッティーさんが僕を見る。


 「そこまで驚かなくてもいいじゃない。だからあなたが習ってくればいいのよ」

 「え?」


 どういう意味? あ、スキル持ってないのって驚かれたと思ったのか。聞き違いしたんだ。という事は、本当に料理はスキルでするもんなの? それじゃ僕にも出来ない事になる。ゲームには、そういうスキルはないから。

 よくわからないけど、そういうのを導入すると凄く容量が必要らしいと聞いた。いや今はそんな事はどうでもいい。


 「ナッティーさん、そうじゃなくて、料理ってスキルでするんだって驚いただけで」


 ナッティーさんの後ろ姿が起こっている様に見えて、あわあわと説明した。


 「え? それすら覚えてない? そういう事は覚えてるのかと思った」

 「そ、そうなんだ。できれはスキルの事教えてほしいなぁ」

 「そうね。いいわよ。座って」


 まだ誰も来ていないけど、ならんで椅子に座った。


 「そうね、魔法の事は覚えてる?」


 僕は、覚えていないと首を横に振る。正確には知らないだけだけど。


 「じゃ結局、何も覚えてないのね。じゃスキルと魔法の違いからね。魔力を使うのが魔法。簡単でしょう」


 ナッティーさんが、右手人差し指を立てて言った。

 僕は、こくんと頷く。

 この世界では、スキルは魔力を消費しないって事か。魔力は、ゲームで言えばマナだろう。

 ゲームでは、攻撃系スキルの様な、一時的に発動するスキルはマナを消費した。もしかしたらそういうスキルが存在しないかもしれないし、それも魔法に含まれるのかもしれないけど。わかりやすいといえば、わかりやすい。


 「で、人間は生活系のスキルが基本備わっているの。でもね、私は調理スキルを持っていなかった。切る、煮る、焼くという特化したスキルもなくて、料理を作ろうとすると大抵失敗しちゃうんだ」

 「……え。そうなの? でもさっき作ったよね? あれは料理にはならないの?」


 僕が視線を鍋に移し、再びナッティーさんを見ると彼女は少し困り顔でこう言った。


 「私、抽出スキルを持っているのよ。だからこれは、厳密には料理じゃなくて……」


 なるほど、料理としてじゃなくて抽出の作業としてやれば、失敗はしないと。

 まあビーカーでコーヒーをと思えば……。

 しかし、この世界はスキルに依存した世界らしい。

 うーん。普通のステータスは、どういう感じなんだろうか。ここまでの話を聞くと、人間と獣人とではスキルとか違うようだけど。


 「あの、ステータスにも違いあるのかな?」

 「うん? ステ……何?」

 「ステータス」

 「ステータス?」

 「聞いた事ない?」

 「……ないわ」


 ぱちくりとして、ナッティーさんが僕を見る。

 あぁやらかした。記憶喪失の僕が、彼女の知らない言葉を言ってしまった。まさかステータスを知らないとか思わないじゃないか。呼び出されてステータスオープンされて……ない? あれは、鑑定。そうだ、鑑定と言っていた。

 された鑑定は、ステータスではなくスキルだったんだ。一般的な鑑定がどこまで見れるのかわからないけど、きっとあの人達はエリートなんじゃないかな。だからスキル以外の情報も少し表示されていた。

 つまり、レベルの概念はあると思われる。けどパラメータの概念はない。存在はしているとは思う。賊と僕ではスピードが全然違った。

 けどゲームと同じで、力が凄いからと言って、ドアの開け閉めで壊したりなどはしない。あくまでもステータスは、戦闘とかそういうシーンでしか作用しない。

 でも今は、そういう分析ではなく、言い訳を考えないといけないかも。

 ステータスという単語は、何を勘違いした事にすればいいんだぁ~。

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