第11話
僕は今、究極の選択に立たされている。
「ねえ、スペランザくん。私がいいよね?」
ラチャさんが、四つん這いになって僕に問いかける。
「あーら私よね。ほら私ならこっちでもいいわよ」
メランジュさんが、後ろを向きおしりを僕に向け近づいてきた。
ふ、二人とも酔っ払っているね!
ナッティーさんと帰って来ると二人は上機嫌で僕達に近づき、そのまま寝室に拉致された。僕は、男なんだけど今日は
エンゾ班の人が男子七人だからだ。ぴったり10人になるので定員オーバー。まあそれはいいとして、そのまま連れて来られた僕の目の前で三人が脱ぎだした。
それは寝間着に着替える為だったようだけど、僕はやはり男として見られていない。慌てて後ろを向き、名を呼ばれて振り向けばニッコリほほ笑むラチャさんとメランジュさんが近づいてきた。
「ねえ、触ってみたくない?」
ラチャさんが、誘う様に自身の顔に触れながら言うから驚いた。
「あら、私の
……のに?
耳? 耳に触れと仰っている?
「あ、そこですか」
僕は、安堵したというか、力がぬけた。
「あら? こっちがいいの?」
メランジュさんが、自身の細長い耳と同じ黄色と茶色のしっぽをするっと摩る。
まさか二人にしっぽもあったなんて!
「ふふふ。普段はズボンの中に隠してあるの」
「寝る時は、寝苦しいから出すけどね」
どうやらこの世界の獣人は、しっぽを見せて歩いてはいけないみたい。
「そんな事より――」
で、冒頭に戻るというわけ。
でわでわ! モフモフを堪能したいと思いま~す! 10歳の役得!
僕は、メランジュさんのしなやかのしっぽと、ラチャさんのピンとしたケモ耳に触れる。あぁ幸せだ。この肌触り。目を瞑れば、動物に触れているようで現実逃避できる。……うん?
何か視線を感じるとチラッと見れば、ジト目でナッティーさんが僕を見ていた。
え? この行為って人前ではやってはいけない行為とか。それこそヤラシイ事だったとか?
「スペランザだけずるい」
え? あ、そっち。
「なーに? 加わりたいの? ほらおいで」
「そうそう。ナッティーも一緒に……」
バン!
僕は大きな音に肩を震わす。
「あ、班長」
ナッティーさんが、ドアを思いっきり開けて現れたクーホン班長を見て言った。
なんだ、班長がドアを開けた音か。
「お前ら楽しんでるな。俺も混ぜろ」
そう言ってなぜか僕を持ち上げた。
「へ? うわ」
な、なぜに肩車?
「ほら遠慮するな~」
「あ、はい」
どうやらクーホン班長も触られたいらしい。ここの人間は酔うと、触るより触られたくなるのか?
僕は仕方なく、クーホン班長の頭を撫でる。
どうせなら女性をいやいや、モフモフしたい。うん?
「こぶ?」
頭に二か所たんこぶがある。賊に襲われた時に怪我していたのか。
「こぶじゃねぇ。一応角だ。俺も
「え!?」
ちょっと待って。この世界の獣人って見た目人間で、ケモ耳とかじゃないの? もしかして獣人だと思っていたラチャさん達もハーフ?
よく見れば、半ズボンでクーホン班長は来ていて、爬虫類のしっぽの様なモノがおしりから生えているではないか!
「あ、あの、スペランザくん……」
消え去りそうな声で呼ばれたと思ったらハチーユさんとセフーユさんが僕を見つめている。あぁ、触って欲しいのね。
僕は下ろしてもらうと、二人のケモ耳に触れた。長めの耳は、ウサギだなぁと感じ、するすると撫でていると、二人ともうっとりとした顔つきに。
な、なんだろう。僕、なんだかいけない事をしている気分になってきたんだけど。
気が付けば、この世界に来た不安など吹っ飛び、どきどきした時間を過ごしていたのだった。
□
「うわぁ」
「あわわ……」
うん? なんだ?
あぁ、クーホン班長とハチーユさん達か。
三人が慌てて部屋から出て行くのが薄っすらと開けた目から見えた。僕らはいつの間にか、敷いた布団の上に寝ていた。正確には、寝っ転がっていた?
もう日が昇っている。カーテンの隙間から日差しが差し込んでいた。
「ふわぁ。あぁ、もう朝か」
「あ、おはようございます」
ナッティーさんが、上半身を起こしたので寝たまま挨拶を一応する。
「あ、起きた? おはよう。昨日は驚いたでしょう」
「うん。まあ」
「私達人間にはよくわからない感情よね」
「え? 感情?」
ナッティーさんは、本当の人間だったようだ。で、よくわからない感情ってなんだろうか。
「あ、そっか。覚えてないか。ハーフって、毛が逆立つ感覚が良いんだって。耳とかしっぽとか触られると、ぞわぞわして良いらしい。酔うと解放的になるらしくて、たまにあぁなる。班長があぁなるのは珍しいから、嵌め外したのね~」
何それ。確かに人間にはわからない感情だよ。
「そうだ。着替えたら朝の支度しに行くわよ。あ、そこ閉めてもらえる?」
「あ、はい!」
ナッティーさんに、三人が開けっ放しで出て行ったドアを指さし言われ、僕はドアに走った。部屋の外に出てドアを閉める。だって、また目の前で着替え始めたんだもん。
それにしても常識が違い過ぎてついていけないんだけど。
僕は、ドアの前で一人悶えるのだった。
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