第10話

 「まあ、記憶がないんじゃしょうがないか」


 そう言いながらナッティーさんがまた歩き出す。

 ホッとしながら僕はついて行く。


 「あのね、昼間村の中を見回る事はあっても、夜にこうやって見回る事はないわ」

 「そうなんだ」

 「スペランザは、モンスターってどんなのかという記憶はあるの?」

 「え? えーと……」


 この世界のモンスターには一度しか遭ってない。だからないに等しい。

 僕は、首を横に振る。


 「そう。だったらモンスターに恐ろしい目に遭って、記憶を無くしたわけではなさそうね」


 え? そういう探りの為の質問だったの!?


 「モンスターは、普通は森の中にいるの。だから森へ近づかなければ大丈夫。それに村に木の柵がしてあるでしょう?」

 「あ、うん」


 気休め程度の木の柵。あんなのモンスターなら簡単に壊せそう。


 「あれが結界の代わりになっているの」

 「結界!?」


 気休めじゃなく、ちゃんと役目があったのか。


 「そう。錬金術ギルドが昔に開発して、今やそれが常識。ただその柵は、モンスターを近づけさせない為の物で、人間だけじゃなくモンスターが触れたところで何の効果もないの」

 「うん? 効果がないとは?」

 「触れたからといって、電気が走ったりとかしないって事。だから触れたからといって、逃げ出したりもしないらしいの。ただ単に、ある程度近づかない効果がある。不思議よね」

 「うん」


 確かに不思議だ。後でこっそり鑑定してみようかな。


 「ところでさ。夜歩く訓練でも受けてた?」

 「へ?」


 ナッティーさんが、じーっと僕を見つめる。

 しまったぁ。やらかした。

 ここは街灯もなく、ほぼ暗闇だ。ナッティーさんが見えているかどうかはわからないけど、知っている場所だ。見えなくても歩けるだろうけど、僕は初めての場所。そこを昼間歩く様に歩いてれば不思議に思うのは間違いない。

 この僕が開発した万能メガネオールラウンドアイテムが優秀すぎたぁ!


 ゲームには夜もある。そして、薄暗い森の中や真っ暗闇なダンジョンなども。本来なら、明かりを灯すアイテムや魔法などで辺りを照らすか、暗くても見える様な体質スキルを手に入れるしかない。

 僕が開発したこのメガネは、それと同じ役目を果たしてくれる。


 クラフトで作れるアイテムで、何役もこなすアイテムは通常ない。アルケフトだけが行える創作のおかげだ。

 通常は、隠れアイテムだってちゃんとしたレシピが存在する。だが開発ノートを使って作ったオリジナルアイテムには、そのレシピも存在しない。レシピからヒントを得て新しく考え作成する事が可能という、凄い機能だ。

 でもちゃんと、事細かく出来上がりも指定しないと成功しない。だからと言って、あれもこれもと色々付け加えれば、成功率は下がる。もちろん、できそうにもないない物は、成功率0%となり創作不能。

 だからみんな匙を投げちゃうんだよね。


 その、あれもこれもをつけたメガネがどうしてできたのかというと、最初からあれもこれもつけて作ってないからさ。

 一個ずつ合わせ、作っていった僕の力作がこのメガネ!


 「別に困らせようとして言ったわけではないわ。記憶が本当にないのなら、どうしてかなんてわからないだろうし」

 「あ、うん……」


 やっぱり記憶の事を疑われている? でも幸い子供に見えているから言えないだけで、変な風に騙そうとしているとは思ってないのかも。


 「ただ、私たちはあなたの味方よ。どこかに売ったりしないから」


 売る!? それって僕の情報を売るって事? それとも人身売買?

 まあ僕も、そんな事されるとは思ってないけど。


 「うん。ありがとう。えーと、本当にわからないだけなんだ……」


 そうこの世界の事がわからない。ただし、日本での常識などがあるから、変な行動に映ってしまうのかもしれない。


 「ごめん、ごめん」


 僕が俯けば、ナッティーさんがぽんぽんと僕の頭を撫でる。

 な、慣れない。僕的には、同じ年ごろに思っちゃうから。


 「はい。帰ろうか」

 「………」


 ナチュラルにナッティーさんが僕に手を出してきた。手を繋ごうという事だろうけど、これって僕が僕なら手つなぎデート!!


 「もしかして私、嫌われてる!?」

 「違います!」


 僕が躊躇していると、わざとらしくナッティーさんが言うので、慌てて僕は手を繋ぐ。


 「たぶん、明日の食事当番は私たちになると思うからお手伝いよろしくね」

 「うん? 食事当番はあるんだ」

 「まあね。食べられればいいからさ。うちらの中に、料理できる人いないし……」

 「え……でも、今日食べた料理美味しかったよ」

 「あぁ、あれは、エンゾ班の人がほぼ作ったの」


 もしかして、この世界は料理もスキルなのか?

 ゲームには、そういうスキルはないから僕も開発してないんだよね。

 いやおいしい食べ物が食べられるかどうかって、死活問題だよね。カップ麺とかないだろうし、あんな干し肉しか食べられなかったらどうしよう……。


 「あ、大丈夫。干し肉とかは、遠出用の食糧だから。ただパンを焼ける人とかいないから、薬草煮がメインになるのよ」

 「薬草……」


 顔に出ていたようでそう言ってくれたけど、それっていわゆる草って事だよね? メインが草なの? え~~!!


 「どうしてもパンが食べたいのなら、村の人に教わるといいかも」

 「え? それって可能なの?」


 そうだとナッティーさんが頷く。


 「ナッティーさんは、習わないの?」

 「……どうしても黒焦げになる」


 ぼぞっと呟かれた。

 この世界のパンの作り方は、高度なのだろうか。僕も作った事がないから何とも言えないけどさ。

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