第7話

 御者をしていた二人は、情けないことにガタガタと震えている。

 年齢は、ラチャさん達と同じ二十代に見えるけど、男の方がガタガタ震えているなんて。


 「大丈夫よ」


 ギュッと僕を抱きしめた後、そっとラチャさんは僕を放した。その手は、少し震えている。


 「もしかして、加勢するの? む、無理だよ」


 ガタガタ震えている、えーと名前はなんだっけ? えっと、ハ…なんとかさん。一気に四人の名前覚えられないからさ。しかもこの二人双子みたいで、灰色の髪に垂れうさ耳でそっくりなんだ。けど声を掛けた人の左耳の半分から先に毛がないから、それで見分けがつくけど。


 「ハチーユ、相手は何人?」

 「え? えーと五人かな……」


 そうそうハチーユさん。

 って、五人を一人で相手にしているの? 大丈夫だろうか。


 「でしょう? 一人じゃ無理よ」

 「待って! ラチャさんだって無理よ。相手は人間なのに」


 ナッティーさんが叫ぶ。

 なるほど。ハンターはモンスター相手に有効な技かなんか持ってるんだ。それは人間相手には効かない。

 だったらここは、僕がやるしかない!


 「そんな事を言っている――って、スペランザくん!?」


 僕は、馬車から勢いよく外へ出た。

 剣を持った賊の男たちが五人居て、クーホン班長がその相手をしている。

 クーホン班長は、だいぶ息切れしているが、怪我はまだしていない。


 「な! 出てくるな」

 「大丈夫! 体術出来るって言ったでしょ」


 僕は、賊の一人に向かっていく。


 「は? ガキ? 女は?」


 女って! ラチャさん達が乗っているのを知っていて襲ったって事?


 「この外道が!」


 僕は、ストレージにしまってあった軍手をつけて、馬車を出ていた。まあこれぐらいなら、カバンに入っていた事にしても大丈夫だし。

 PvPにも使える様にしておいてよかったよ。


 賊の男が剣を振り下ろすも左手で軽く払う。そして、右ストレートをお腹にお見舞いしてやった。


 「ぐわぁ」

 「あ、やべ」


 力加減間違えたかも。

 賊の男が思いっきり吹っ飛んでいった。まあ死んでなければいいか。


 「お前、本当に体術できたんだな」


 クーホン班長が、目を丸くして驚いている。

 この世界では、スキルも何も持たない者はかなり弱いらしい。いや元居た地球だってそうだけど。だから男のハチーユさん達が震えていたんだろう。

 僕は、自身のスキルは創造術とかで戦闘系は一切なしだけど、魔法や攻撃アイテムならそれなりにストレージに入っているから、この世界なら強い方になるんじゃないかな。


 「貴様ぁ!!」


 うわぁ。マジ!?

 残りの四人が一斉に僕に襲い掛かって来た。大人げないんだけど。


 カキン!

 襲ってきた一人にクーホン班長が剣を向けると、相手は剣で受けとめた。よって相手は三人になったが、あまり変わらない。


 「1、2、3」


 僕は軽々と三人の攻撃を避け、賊の男たちのお腹に先ほどと同じくパンチを繰り出す。

 何だろうか。こいつら動きが遅い。どうやらすべてに、ステータスが反映されている世界らしい。

 一緒に召喚された三人のステータスが英雄並みだと言っていたから、そんじゃそこらの者には負けないと思う。生産系キャラだけど。


 「ぐわぁ」


 クーホン班長の方も終わったみたいだ。


 「すごーい!!」


 ナッティーさんが、中から縄を持って出てきて感動している。

 そして、その縄でみんなして五人の賊を縛っていく。


 「スペランザ」


 クーホン班長が僕に近づいて来て、ポンと肩を叩いた。


 「ありがとう。助かった。で、何のスキルを持っているんだ?」

 「え? あ、覚えていません」

 「体術が出来るのは覚えていたのにか?」


 そうだった。体術が出来るって言った時は、記憶喪失って事にしようと思っていなかったから。もうすでにつじつまが合わなくなってる?


 「いや責めているわけではない。ただ人にも通用するスキルや魔法ならハンターでいる必要もない。騎士になればいいと思ってな」

 「騎士?」

 「あぁ。騎士はモンスターを相手にしない。賊などを相手にする。ハンターよりよっぽど安全で安定した職業だ」


 そんな職業があったのか! 確かに人相手ならモンスターより安全だ。なんたって、賊になるような奴らはきっと、ハンターにすらなれなかった者達だろうから。そうじゃなくても僕よりは弱いはず。だったらぜひそっちになりたい。


 「でも、決めるのは国でしょう?」

 「国?」

 「あまりに強いと、エリート隊に入れられるかもよ」


 メランジュさんが言うと、周りがうんうんと頷いている。


 「まあそうかもしれないが、鑑定してもらった方がいいだろう」


 ステータスを見るだって!

 うーむ。レジストしかできないからなぁ。偽造用のアイテムを作らないとダメだろうそれは。強すぎるステータスも問題だな。

 エリート隊がどんな隊なのかはわからないけど、僕はこの世界の人達とはかけ離れているステータスだろうから。

 あまりに強いと脅威に映る。これも鉄則だよね。


 「あの、僕、このままこの班にいたらダメですか?」

 「え? いや、居てくれるのならこちらは助かるが。お前たちが脅すから」

 「え~。いいじゃない。ねぇ」


 メランジュさんが、周りに同意を求める。


 「そうそう。頼もしいじゃない。かわいいし」


 えへへと、ラチャさんの言葉に僕は照れた。


 「まあでも、後でちゃんと説明するからそれから決めるといい」


 僕は、わかったと頷く。

 クーホン班長って真面目だなぁ。

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