第8話
「さてと、誰から情報を得たか聞こうか」
ロープでグルグル巻きにされた賊が目を覚ますと、クーホン班長が一人の賊の首に剣を突き付け聞いた。もちろん、フンっという態度で話す気などない様子。
「言えば、お前だけでも命だけは助かるぞ」
「誰が言うかよ。最初からこっちだって命懸けだ」
「ほう、そうか。なら遠慮なく」
え? 殺すの? この世界ってそういう世界? いや相手は賊だけどさあ。
あぁ、なんだか目が回って来た……。
「え! スペランザくん!」
隣に立っていたラチャさんが、倒れそうになった僕を慌てて支えてくれた。
「大丈夫?」
「はい、なんだかめまいが……」
ぐ~~。
シリアスな場面でのお腹の音、テンプレですなぁ。
そうだった。この世界に来てから何も食べていないんだった。
「お腹すいていたの? これ食べる?」
「それ無理だと思う」
ハチーユさんが、嫌そうな顔で言う。
ラチャさんが出してきた食べ物は、凄く堅そうだ。干し肉だろう。
「ちょっと臭いがきついけど。今これしかないし」
確かに袋から出したとたん、ぷーんと何とも言えない変な臭いがする。でも食べれない事もないと思う。お腹がすいているんだし。
「ありがとうございます」
僕はフラフラなので、干し肉を受け取ると座り込んで口に運んだ。
「う……っぺっぺ」
かじった途端、吐き気を覚えた。
臭いだけなら我慢できたかもしれないが、苦いんですけど!
口に苦みが残り、唾を吐きだしてしまった。
「ほらやっぱり。食べた事ないんだ」
「ここで調理するわけにもいかない。出発する用意をするぞ」
クーホンさんに抱きかかえられ、馬車へと運ばれた。
別に歩けるんだけど。
「ありがとう」
「横になってろ」
そうは言うけど、賊をどうするのかと気になって見ていたら、賊が乗って来たと思われる馬に彼らをそれぞれ縛っている。あれだと馬に引きずられる事になる。引き回しの刑とは!
死にはしないとは思うけど、いや死ぬかもしれない。彼らは怪我をしたままだ。自業自得だとはいえ、恐ろしい世界だ。平和な日本に帰りたいよう!
出来れば血は見たくない。言われた様に、寝ていよう。
「顔色悪いけど大丈夫? スペランザ」
ナッティーさんが、僕の顔をのぞき込む。
「うん……」
元気ではないが大丈夫だ。
ナッティーさんの後に、ラチャさんとメランジュさんが乗り込んで来たが、クーホン班長が乗り込まないうちに馬車が走り出した。
「あれ? クーホン班長は?」
「馬車の御者やってる」
なんでクーホン班長が? あの二人はもしかして馬の方?
「ハチーユとセフーユは、馬の舵」
「二人で五頭もすごいね」
「まあ、ちょっと特殊なスキルでね」
スキル持っていたんだ。
やばい。酔って来た。
「う……」
「どうしたの?」
「酔ったみたい」
外からは、断末魔が聞こえるし。眠れたらいいのに……あ、そうだ。ポーション効かないかなぁ。って、こんなに見られていたら飲むのは無理か。
三人で見守ってくれている。
「あぁ、この馬車揺れるからね。ほら、こうしたら少しは楽じゃない?」
僕の頭を上げたと思ったらメランジュさんが床との間に入り込んで来た。今度は、膝枕ですか~! 僕、どんどん初体験しているよ。
僕は、揺れすぎる
村に着いたのは、日が暮れる直前。
荷物をみんなが下ろし始めたので手伝おうと思ったけど、横になっていろとクーホン班長に、布団へと連れていかれた。
なんと宿屋ではなく、
村に来るギルド員が寝泊まりする建物で、キッチンや解体場などもある。
部屋は、女子と男子に分かれた大部屋だけど。最大男女10名ずつ、20名が寝泊まりできるらしい。
今日までこの村を守っていたエンゾ班が泊まっていた。今日も泊まって、明日村を出るらしい。
あぁやっと、布団で寝れる。
「おい、坊主」
ぽふんと布団に寝っ転がったらドアから声がかかった。
知らない人だ。きっとエンゾ班の人だろうけど、なんだろう。
「はい……」
僕はもそっと上半身を起こす。
「何も食べていないと聞いた。ほらパンだ」
「え! パン!?」
よかった。この世界でもそういう食べ物があって。当たり前だけど、あの干し肉みたいのばかりじゃないだろうけど、知っている名の食べ物でありがたい。
「ありがとうございます」
わざわざ僕が座る布団の上まで持って来てくれた。
「ほれ」
「えーと、ここで食べていいの?」
「うん? 俺らから食べ物は受け取るなって言われているのか?」
「え! いやそうじゃなくて、場所の問題で……」
そうだ。この人はハンターだ。布団の上で食べる事が、お行儀が悪い事ではないのかも。
「場所? あははは。お前、いいとこの坊ちゃんだったのか?」
「………」
どうしよう。なんて答えたらいいんだ。記憶喪失ですって言っちゃっていいのか?
「ほれ、難しく考えなくていいから食べな」
「ありがとう」
パク。
これ、コッペパンだ。あぁ幸せ。食べられるって幸せだったんだな。
「ゆっくり食べろ。喉詰まるぞ」
僕は、こくんと頷く。
彼は丸みのある三角耳だ。ただ淡い緑色の髪と耳だから、まるでぬいぐるみみたい。だって緑色の動物なんて知らないから。
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