第6話

 「よろしくお願いします」


 一時間後、僕はクーホン班のメンバーと挨拶を交わしていた。今から村に向けて馬車に乗り込む。

 馬車ってこれかぁ。

 目の前にあるのは、幌馬車だ。荷物と一緒に乗って移動するらしい。


 クーホン班は、班長を含め六人。だから僕を入れたら七人と、思ったより少ないメンバーだった。

 村の警護を一手に引き受けるのではないのだろうか。七人、いや六人で大丈夫な仕事なの?


 「まあ仕事の話は移動しながらな。では乗り込むぞ」

 「「はい」」


 クーホン班長の合図で二人が運転する為に前へ、その他の者は荷物がある馬車内に乗り込む。


 「ほらよ」

 「わぁ」


 クーホン班長にいきなり抱き上げられ僕は驚きの声を上げた。

 すとんと、馬車内へ下ろされる。

 びっくりした。声上げちゃったよ。恥ずかしい。


 「ほら、こっちへおいで」


 そう言って、こげ茶いろの髪と同じケモ耳・・・のラチャさんが僕の手を引く。そして彼女は、僕を抱き上げると樽に腰かけ膝の上にちょこんと座らせた。


 「あ、あの……」

 「心配ない。重くないから」


 いや、そうではなくて、せ、背中に当たってます。

 僕の顔は、今やゆでだこだろう。


 いろいろさっきまでテンぱっていた僕は、集まった班の仲間にケモ耳の人がいるのに気が付いた。というか、クーホン班長とナッティーさん以外はケモ耳だ。きっと街中にもいたはずだけど気づかなかった。

 ラチャさんのケモ耳は、三角耳でたぶん猫系の耳だと思う。


 「あ、ずる~い。私も抱っこしたい」


 そう言って僕達の前に立つのは、メランジュさんで黄色と茶色の縞模様のケモ耳で、髪は茶色で瞳が金と何となくトラっぽいイメージ。

 班のメンバーは女子三名で、二人は二十代に見える。

 そ、その二人が僕の取り合いなんて! 現実だとあり得ない……。


 「私がいいよね?」

 「じゃ、後で交代ね!」

 「ほら座れ、動くぞ」


 クーホン班長は、馬車の床に座って言った。ナッティーさんもその隣に座っている。


 「モテモテだな、スペランザ」


 がはははと笑いながらクーホン班長が言うと、まるでそれが合図の様に馬車が出発した。


 「ところで、スペランザくんはいくつ?」


 僕らの隣の樽に座ったメランジュさんが聞いてくる。


 「わ、わかんない」

 「わからないの?」


 僕を抱っこしていたラチャさんが驚いて言った。僕は、こくんと頷く。

 このまま色々聞かれたら答えられない。この世界の人間じゃないとなれば、召喚されたとバレるかもしれない。そうなると、この人達に迷惑がかかる。なのでここは、定番中の定番で、記憶喪失という事にしておく。


 「なるほどな。あいつらまた何かしたんじゃないだろうな」

 「あいつらって?」

 「何でもないよ」


 クーホンさんの言葉に質問すると、僕の頭を撫でながらラチャさんが言った。

 教えてくれないのか。子供だと、世間の事情を聞き出せないのがなぁ。


 「それよりスペランザ、俺たちの仕事の説明をしておくな」

 「あ、はい」

 「さっきちょっと話したが、俺たちの仕事はモンスター退治だ。だが、それぞれ役割がある。モンスターを倒すのは、我々四人」

 「え? 運転している二人は?」


 クーホン班長以外、女子なんだけど。


 「彼らは、それ以外の事をする。例えば今みたいに移動の時は御者をして、倒したモンスターの解体も行う」


 どうやらこの世界は、基本男性がモンスター退治というわけではないみたい。


 「お前も彼らに付き、解体を覚えるといいだろう。今から覚えれば、ある程度の年齢になった時、解体ギルドに登録する事も可能だ」


 そういえば、そういうギルドもあったっけ。


 「何が違うの? 二人はハンターギルド所属ではないの?」

 「いやハンターギルド員だ。ハンターギルドで解体の腕を磨き、解体のみ行う仕事に転職できるって事だ。解体ギルド員を雇って、モンスター退治に行くハンターもいる。解体ギルド員は、モンスター退治はしなくていい。だがハンターなら役割が解体だとしても、時として戦わないといけないんだ」


 僕は、こくんと頷いた。

 きっと解体の仕事をしている人は、戦うスキルがないのかもしれない。

 そういえば、回収ギルドっていうのもあったな。


 「あの、回収ギルドって、モンスターを回収するギルド?」

 「うん? あぁ。収納空間アイテムボックスの魔法を持った者達の集まりだ。容量は個々違うようだが、ダンジョンに行ったりする時に頼むギルドだな。我が班は、ダンジョンに行く事がないから一緒に仕事をする事はないだろう」


 なるほど。これは、ストレージの事は秘密にしないとダメかも。

 色々わかった。魔法を使える人はそんなに多くないんだ。そして、解体スキルとかは、魔法と違って地道に身に着けるもの。

 って、僕はアイテムがあるからそれ使いたいけど、みんなの前では使えないよね。そもそもそれ、どこにあったって事になる。


 ひひ~ん。


 「うわぁ」

 「きゃ」

 「何だ!?」


 馬のいななきが聞こえたと思ったら、馬車が急停止した。


 「班長! 賊です」

 「何!? お前らは中に入れ!」


 クーホン班長がそういうと馬車から降り、御者をしていた二人が慌てて運転席から中に乗り込んだ。

 襲ってきたのがモンスターじゃなく、賊なの? クーホン班長だけが降りたって事は、賊と戦えるのは班長だけなの? いきなりピンチじゃん!

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