第5話

 薄々そうかもと思ってはいた。

 どうしたらいいんだろう。あっちに戻ってちゃんとステータス見てもらう?

 でも召喚した人がいい人とは限らない。現に今日だけしか使えない通行証をよこした。お金の価値は確認していないからわからないけど、本当だとしても10日しか、いや、食べ物の事を考えればそれより少ない日数しか持たない金額だ。

 僕の事を知られたくないようだったし。それって、失敗したら何かあるのか?


 いや今は、これからどうするかだ。

 この世界の基準がわからないんだよね。でも冒険者みたいのがあるからそこに行ってみるかな。ただ10歳の子供にも仕事をさせてくれる世界かどうかわからないけど。

 年齢はあれだけど、ゲームキャラで召喚されてよかったかも。


 僕は立ち上がると、ハンターギルドに向かった。

 ここだけは、ドアが開け放たれているから人の出入りが激しいのだろう。

 ハンターギルドの建物には、他のドアもあった。そこは、閉まっている。だから開いているドアから入るべきだよね。


 建物の外から中を伺えば、開け放たれたドアから見えるのは広いスペース。そこに色んな恰好をした人たちがいた。もちろん武器を携えて。

 僕、武器ないけど大丈夫だろうか。武器ないとダメって事ないよね。

 とりあえず、入ってみよう。


 てくてくと入っていくと、みんなが振り向く。

 どう見ても僕、浮いているな。


 カウンターがずらっとある。

 誰も並んでいないカウンターがあるからまずはそこで聞いてみよう。


 「あの~」

 「どうした、坊主。どこかにモンスターでも出たかい? ここはモンスターを倒す仕事をする場所だよ」


 やっぱり冒険者ギルドみたいなところで間違いはないみたい。

 でてきた男は、がっしりした体格で事務仕事より狩りハンターの方が似合いそうだ。ただ彼は、黒髪でなんだかホッとする。


 「えっと、僕でもギルドに登録できますか?」

 「え? 親は?」


 僕は、いないと首を横に振った。


 「村を出て来たのか? 街にはどうやって入った?」

 「えっと、これで」


 隠しても仕方がないので、通行証を見せる。


 「魔法ギルド発行の通行証? どうして君がこんなものを」

 「えっと、拾った」


 僕が持っているのが不自然みたいだからそう言うしかない。下手に召喚の事を言わない方がいいだろうし。


 「なるほどな。いいかい坊主。お前でもギルド員にはなれる。だがな、大人と同じ扱いだ。自己責任ってやつになる。わかるか?」


 僕は、わかると頷いた。


 「しかしなぁ。武器も持っていないようだし。魔法が使えるわけでもないんだろう?」

 「魔法は使えないけど、体術ができるから武器もいりません」

 「は? 体術?」


 受付の男が、しばらく僕を見つめる。


 「がっははは。大きく出たな。わかった。だけどナイフぐらいはないと、解体もできないぞ。おい、ナッティー」

 「はーい。なんでしょう、クーホン班長」


 青髪のボーイッシュな女の子が呼ばれて奥から出て来た。

 年齢は僕と、現実の僕と同じぐらいだろう。


 「この子を俺の班に入れる。用意を頼む」

 「え? 連れて行く気ですか?」

 「ここでハンターの仕事をするよりいいだろう」

 「わかりました。用意します」


 あ、事務員じゃなかったのか、ハンターって受付もするの? しかも班長なのに。


 「そうだ、名前はなんて言う」

 「スペランザ」

 「よし、ちょっと待ってろ」


 そういうとクーホン班長は奥へと引っ込んだ。

 一段落して周りを見渡せば、僕に注目している人はもういなかった。


 「ほれ、ハンター認定書だ」

 「え! こんなすぐに貰えるの?」

 「これがないと、ハンターとして連れていけないからな」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――

  ハンター認定書 ルチャカダ支部 クーホン班 ★

  ネーム:スペランザ

 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 もしかしてここって、ルチャカダという街なのかな?

 ところでこの★はなんだろう?


 「この★マークは、何を現わしているんですか?」

 「そいつか? グレードかな。戦えない者や素人が一つ。一般的なハンターが二つ。それよりちょっと優れている者が三つ。というように、ハンターとして腕が立てば立つほど星が増えていく。ちなみに俺は、★四つな」

 「四つ!? すご~い」


 ちょっと子供っぽく驚いてみた。

 そういえば、どこかへ行くようだったけど。


 「これからどっか行くんですか?」

 「あぁ。ちょっくら村にな。まあ一年くらいかな」

 「え!?」

 「ハンターギルドの中にも村に行って、モンスター退治をするグループがあるんだ。場所は、ここから馬車で半日ってとこかな。ルダダイルド村だ。聞いたことあるか?」

 「えーと……ル……なんだっけ?」


 僕が困り顔で言うと、クーホン班長がまたがははと笑う。


 「必要最低限の物は村にあるから心配するな。ただし、用意した物の代金は出世払いな」

 「あ、ありがとうございます」


 僕は、いい人に声を掛けたらしい。

 もしかしたら僕の死を望んでいるかもしれないから、この街を離れた方がいいだろうし、ナイスタイミングだったかも。

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