第4話

 疲労を感じるのは、クエストだからだろうか。

 それともまさか……いいや、そんなわけあるか。

 僕は、よぎった恐ろしい考えを吹き飛ばす為に、ぶんぶんと首を左右に振った。


 あ、そうだ。さっき倒したモンスターを解体キッドで解体しておこうかな。

 VRゲーム『夢の大陸カエアルド』では、モンスターを解体する事で戦利品ドロップアイテムを手に入れられる仕組みだ。なので、非戦闘員も必要不可欠なゲームなんだよね。

 もちろん僕は、非戦闘員。


 解体キッドと言いつつ、白いビニールシートにチャックがついたアイテムです。

 一人どや顔な僕。

 これは、オリジナルアイテムだ。

 創作術を持つアルケフトだけが出来る。まあその為にはまず、開発ノートを作らないといけないけどね。この開発ノートさえ作っちゃえば、後はポーションさえオリジナルを作れちゃう。


 ジャンジャカジャーン♪ スペランザのアイテム紹介♪

 この犬モンスターに、二つ折りしたこのビニールシートを被せると、あら不思議。いつの間にか、モンスターが二つ折りの中に入っております! 

 モンスターが挟まっているのを確認したら、コの字のチャックを閉めれば勝手に解体が始まる便利グッズ。しかもこれ、周りのマナを使用する為、自身のマナを消費する事もありません。

 この大きさですと、一分程で完了です。白いビニールシートが青いビニールシートに変化すると完了の合図。後はこのままストレージにしまいましょう。

 しかも、どんなに量があっても一つ分のスペースしかとりません!


 というわけで、ビニールシートはストレージにっと。

 この後は、モンスターに出会いません様に!

 祈って僕はまた走り出した。


 しばらくすると、先が開けてきて塀の様なモノが見えだしてきた。

 よかった。もう少しだ。陽が高くなり昼時かもしれない。

 よくファンタジーにある塀に囲まれた街の様で、出入り口の門に兵士が立っている。

 馬車も通れるほどの大きな門で、その門から見える街並みは、人で溢れかえっていた。


 「通行証かギルド認定証はあるか?」

 「あ、はい」


 街の門の前まで来ると兵士がそういうので、渡されていた通行証を見せる。


 「うむ。ギリギリだったな。期限が今日までだ。更新しておくように」

 「え? あ、はい」


 なんだそれ。今日までしか使えないのをくれたのかよ。あ、そうだ。どこで更新するんだ?


 「あの、どこで更新すればいいでしょうか」

 「その発行所は、魔法ギルドだろう。そこで聞いてくれ」

 「あ、はい。あの~」

 「なんだ?」


 兵士は、忙しい様でまだ何か用かとめんどくさそうな露骨な態度。

 いや、わかっているけど、もう少しお手柔らかに……。


 「そこってどっちにいけば」

 「あっち!」


 びしっと右の道を兵士は指した。


 「ありがとうございます」


 頭を下げ礼を言うと、これ以上邪魔しないようにと走り出す。

 ひ~。兵士の様な人が怖い顔するの勘弁してよ。超怖いから。

 あ、ハンターギルドだ。きっと冒険者ギルドみたいのだよね。

 建物のドアの上には、いかにもファンタジー風な板に文字が書かれた看板が取り付けられていた。僕をそれを確認しながら歩き魔法ギルドを探していると、先にハンターギルドを見つけた。

 うーん。今更だけど、文字も読めるんだ。

 凄いよ。ちゃんと転生風になっている。日本語の文字じゃないのに、読めちゃってるよ。


 とりあえず、魔法ギルドを探そう。

 ハンターギルドの建物は大きかった。トボトボと歩き改めて風景を眺めてみると、ゲームの世界とはちょっと違うなぁ。

 メインの街には、プレイヤーが溢れていたからか、ここまでNPCが多いと本当の異世界かと思っちゃうよ。

 って、言うか、他のプレイヤーとはエリアが違うの? プレイヤーみたいな人はいけるけど、何か違うような。

 ……もしかして、本当に異世界。ないないない! あるはずない。

 とにかく、魔法ギルドに行こう。

 僕は、不安を消し去る為に一人大きく頷く。


 解体ギルド。回収ギルド? ってなんだ。

 あ、あった。魔法ギルド。


 「すみません」


 ドアを開け中へと入っていくと、一応カウンターがある。

 奥から白いローブを着たおじさんが出て来た。あ、召喚した人達と同じローブっぽい。


 「おや? なんだい、おつかいかい」


 おつかいって。子供じゃないんだし。あ、そういえばこのキャラの見た目、10歳だった。ゲーム歴5年で本当は、17歳なんだけどね。


 「あ、えっと、これ更新ってできますか?」


 カウンターに通行証を置いた。

 

 「おや、招待通行証か。これは更新できないよ」

 「え! できないの? あ、じゃ再発行というか取得とかできますか?」

 「君、魔法が出来るのかい?」


 おじさんがちょっと驚いているところを見ると、出来る人が少ないか、年齢的なものだろう。どうしようかな。魔法は使えない。アイテムで魔法と同じ効果は出せるけど。


 「えーと、使えた事はないです」


 一応、正直に言ってみた。だろうなという顔つきになる。魔法は、全員が使える設定ではないみたいだ。


 「残念だが、ここでは通行証も認定証も発行できないね。誰からもらったか知らないが、これは今日だけ使えるものだ。何かこの街に用事だったかい? それをすませてから街を出るんだよ」


 優しく言ってはくれたけど、どうやら出る事ができても、明日からは入る事が出来なくなるようだ。


 「あの、運営とかGMとかってわかります?」

 「うん? 運営? 商売の事かい? それなら商業ギルドにいくといいよ」

 「……はい。ありがとう」


 僕は、フラフラとドアに向かい建物から出た。

 手に嫌な汗をかいている。こんな設定ないし、おなかもすいた。ゲームで空腹感設定もない……。

 僕は、ふらついて足の力が抜けたように、地面に座り込んだ。

 

 嘘だろう。ここって、本当に異世界なのかよぉ!!

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