第2話
なんでレベルが三桁もあるのに、ジョブを獲得していないんだ。
もしかして……全員にレジストされた事になってるのかよ! ……いやそんな事ないか。僕との表示の仕方が微妙に違う。
このクエスト、本当に何なんだ。これだと、装備もしていない事になるかも?
だったらもしかして、本当に装備系何もつけていないのか? 衣装だけなのか?
見せるだけの装備がある。それが衣装。それを着ると、見た目はそれになる。
僕の役どころは、彼らの装備を整える事なのかも。
なるほど納得だ。それなら得意とするところだし。でも異世界という設定だから、こっちの素材で作成するのかも。
しかし微妙に、スキルが面白く変えてある。
「う、う~ん?」
気が付けば、ヨープの深緑の瞳が僕のステータスをのぞき込み、険しい顔つきを見せていた。
僕と目が合うと、スーッと笑顔になる。
どきどきどきどきどき。
僕としては、VRゲームで怖いのは、戦闘だけじゃないんだよね。
このリアルな表情が怖い。画面上ならなんだこいつってなるんだろうけど、目の前だと、ゾ~っとする。
「三人は、召喚英雄でしょう」
ヨープに魔法使いの一人が話しかけると、彼はうむと頷いた。
僕らに聞こえない様に話しているようだけど、この距離なら『スキル:聞き耳』で聞こえるんだよね~。
「あの者だけ見た目も違う。今回の召喚条件、眼鏡もつけていない。彼は、間違って召喚されたのだろう。鑑定表示もおかしいからな」
はぁ? ステータスがおかしいって、レジストされた事に気づいてないの? というか、他の者達はお眼鏡にかなっているの? 眼鏡だけに……。
召喚条件付きの召喚なんてあったんだ。しかも眼鏡。いやそれなら条件に僕も当てはまる。見えていないだけだからね。
うん? この流れで行くと僕は、追い出されるのでは?
もしかしてそれを回避する為に、眼鏡を見せた方がいいのかな。そしてもう一度、ステータスを見てもらう?
なんかそうしないと、クエスト失敗になりそうなんだけど。
「あ、あの!」
ひそひそ話をしているヨープに向かって僕は話しかけた。
「なんだね」
「僕、本当は眼鏡してるんです」
僕は、眼鏡を外した。顔は何も変わらないけど、手には眼鏡を持っている。
「おぉ、すげぇ。眼鏡が現れた」
驚きの声を上げたのは、シュンさんだ。
「て、手品?」
イツカさんが、そう言って首を傾げている。
「あ、あの、もう一度……」
「なるほど。レベルは低いが読唇術が出来たのか。だが……」
「え……」
こうじゃないの?
「君はやる気になってくれたようだが、残念ながらLV1では死に行くようなものだ。巻き込んで悪かった。だがもうどうする事もできない。お金と通行証を渡すので、許してほしい」
「………」
許してほしいって……クエスト失敗かぁ。
ガックシ。
「わかりました」
しょんぼりして言うと、魔法使いの一人がついて来いというので、僕はトボトボとついて行く。
「ほら。これがこの世界のお金だ。無くすなよ。一枚で、宿屋に一泊できる。なくなる前に、採取者にでもなって稼ぐんだな。まあお前に採取できればけどな。まあ悪く思うなよ。あと、街に入るなら通行証が必要だ。それがこれ。最後に、ここでの事は誰にも話すなよ。話せば、聞いた者どもこの世界から抹消する」
「へ? 召喚って秘密なの?」
「いや、お前の事が秘密なんだ。わかったら、さっさと行け!」
「おわぁ」
どんと、背中を押され、こけそうになる。
振り向けば、魔法使いの男が、しっしと手を振って睨みつけていた。
どこかの王宮とか神殿とかなのかなぁって思ったけど、森の中にある屋敷だ。
屋敷に背を向ければ、遥か遠くに街の様な集落が見える。まずはあそこに行けばいいのだろうか。ちょっと遠いな。
というか、いつクエスト終了になるんだよ。
僕は、もらったお金が入った巾着をのぞき込む。
同じ貨幣が10枚入っていた。10日分かぁ。
一旦ログアウトして、イベント確認してみるかなぁ。
う~ん? システム表示をしようとするも表示されない。どうなっているの?
え? ちょっと待って、これクエストが終わらないとだめなの? そんなの聞いた事ないんだけど。いやシステムが表示されないなんておかしいだろう。
「じゃステータスは?」
ぶおーん。
普通に表示された。
じゃ、ストレージは?
ぶおーん。
これもOK。僕の大切なコレクションも全部ありそうだ。
うーん。なんでシステムだけ開かない? ロックされちゃった? それやばいだろう。とにかく、街に行って冒険者協会? 冒険者ギルド? に行かないと!
そういうところには、連絡用のシステムがあったはず。
ならダッシュ!!
僕は、走って森を駆け抜けた。
――ぜはぜは。
なぜだろう。凄く疲れた。疲労しても感じない様にしてあったのに。
な、なんか嫌な予感がするよ。
僕は、来た道を振り返るもすでに道しか見えない。視線を向かっている方へ向けても道しか見えない。
こういう道は、好きじゃないんだけど~。
休みたくないけど、疲れたので一休みする事にしたのだった。
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