6.最初の目標

私はあれから二週間も寝込んだ。


熱が出てしまったのだ。


すぐに治るとおもっていたが体温はなかなか安定せず何度も熱が上がった。


結果、ベッドから出れたのが二週間後になってしまったのである。




「おはようございます、アヤ様」




私の部屋に唯一出入りする人、ミル。


ミルは私の専属のメイドさんらしい。


熱が出ていて知らなかったが、バサラブさんが説明に来ていたそうだ。


ミルは前世の私の年齢ぐらい、つまりは17歳ぐらいになる。


いつもおさげにしていて、身の回りのことをすべてしてくれている。


熱があったときは全く動けなかったので彼女が食事や着替えなどをやってくれていたらしい。




「こちらをどうぞ」




そういってタオルを渡してくれた。


毎日着替えたりしているとはいえ、一度寝るとやはり汗をかいていて、タオルで体を拭けるのはものすごく助かる。


早く、お風呂に入りたいなぁ。


あれ、この世界にお風呂はあるのだろうか…。




「どうしました?」




タオルを見つめて考えてしまっていたらしい。




「…なんでもない」




ヒロインは学園に入学するまでどんな態度で家にいたのだろう。


たしか、ゲームの設定では今まで味方がいなかったから攻略対象に支えられていたはず。


つまり、ここで家族や使用人の皆と仲良くなれば問題ないのでは?!


今の態度、まずかったかなぁ。




「元気そうですので、今日はお風呂に入られますか?」




お風呂あったー!


あ、これが一番嬉しい。


そしてミルも二週間も私のことを見ていただけあって察してくれるのがものすごく嬉しい。


少し年上のお姉さんみたいだなぁ。




「…うん」




すみません、仲良く接しようとは頭のなかでおもってはいるのですが、コミュ障なんです。


そう、私前世で友達咲菜だけなんです。


友達は画面挟まないと話せない感じなんです。


それに、この世界、顔面偏差値が総じて高い!


いや、ここにいる人だけなのかもしれないけれども。


ミルもよくみるときれいな萌黄色の瞳に栗色の髪。


肌は白いし、手は綺麗だし。


あれ、私自分の見た目ちゃんとは知らないなぁ。


お風呂いけばわかるか。




「こちらです」




ミルに手伝ってもらいながら風呂場で着替えて浴室にきた。


ずっと寝込んでいたこともあり体力はものすごく衰えていて、


少し歩くだけでぐったりしてしまった。




「え」




浴室には大きな鏡と湯船があった。


鏡にうつっていたのはゲーム画面で見ていたヒロインの姿ではなかった。


美しいブロンドの髪もほとんどが白くなってしまった。


目の色も藍色ではなく茜色。


痩せてしまってまるで死にかけのようになっていた。




「こんなのゴーストじゃないか」




私は鏡をみてついいってしまった。


ミルは静かに横にいるだけだった。


ヒロインの面影はもうどこにもない姿に驚きを隠せなかった。


このままでは完全にシナリオとそれるのでは?


いいことだけど本当に平気なのだろうか。


私が今必要なのはどうやら体力づくりのようだ。




「ねぇ、ミル」


「はい、アヤ様」




ミルは湯船に浸かる私の髪を丁寧に洗ってくれる。


ずっと寝ていたから脂っぽくなってしまった髪が


少しずつ綺麗になり、光を吸い込むような色になる。




「このあと少し動いてもいいかな?」


「ダメです」




即答ですか。


そりゃ、病み上がりの人を止めるのは当たり前のことである。


だけど私は少しでも動きたかった。




「この家の中だけでいいから」




この家の広さ知らないけれど




「今日は安静にするように医師から言われています」




絶望的だ。


仕方ない。


今日は部屋で大人しくしていることにしよう。


そのかわり、明日から確実に動いてみせるんだ。




そんな決意をしてすぐ、私は浴室から自室に戻るまでミルにしっかり支えられて歩いていた。














<おまけ(?視点)>




彼女はあれから二週間も寝込んだ。


何回か部屋に行き、回復をさせてみるもなかなか落ち着かなかった。


ある日、部屋にいったとき彼女はうなされていた。




「ごめんなさい…ごめん…なさい」




彼女はなにかに向かってひたすら謝っていた。


目から涙がこぼれる。


あの事故のことを思い出しているのだろうか。


もう、あの頃のように笑わなくなってしまうのだろうか。


ひたすら謝る彼女に少しでもいい夢が見れるようにヒールをかける。




「君の笑顔をみせて」




そうおもって彼女の涙を拭き取る。




この家で僕はいま誰とも話せないでいる。


どうか君があの頃のように僕と話してくれるように。


君が僕の光でありますように。






廊下で彼女がミルに支えられて歩いているのをみた。


とても辛そうだったけれど少し笑っていた気がした。


白い髪が光を反射して輝いて見えた。


少しだけ残ったブロンドの髪が白に飲み込まれていく。




そんな彼女が僕には天使にみえた。

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