第26話

 翌日。ロディが一階で朝食を採っていると、赤髪と少年は揃って現れた。

「適当に頼む。こいつの分もな」

 酒場の隅に腰掛けるロディの向かいに腰掛ける。赤髪は変わらぬ様子だが、少年はどこか気が抜けているような気がしていた。隙あらば爆発しそうな男だったというのに、一体どうしたというのか。

「やけに静かだな」

「……やかましいっ」

 声にも覇気がない。鳥の目玉煮込みを口に含むと、赤髪が疑問に答えた。

「なあに。怒り狂う若者も、一発二発、三発でも抜けば大人しくなるってもんよ」

 なるほど。ロディは状況を把握した。考えてもみれば、彼はとても若い。憎悪ならともかく、行き場のない怒りも、溜まったものを出せば紛れるだろう。

「仕事の邪魔になるなよ」

「こちとら副業だ。毎月避妊魔術受けてっから心配するな」

 ならば、三流冒険者のような引退はしないだろう。目玉煮込みを食べ終えると、ロディは今後の簡単な予定を話し始めた。

「北へ少し行った場所に森がある。潜伏するなら、そこだろう」

 先日から聞き込みを続け、数日中に街道を通った隊商はなし。街道を無視して走る事も不可能ではないが、軍閥の兵士に見つかれば誰何すいかを受ける。ガラの悪い部隊なら問答無用で撃たれる。そういう話は、未だこの辺りでは聞いていない。

「可能性が高いのはその辺りってわけか。でもよ、森を探すのは大変だぜ。二度とやりたくねえ」

 森に潜伏する少人数を探すのは骨が折れる。それはロディも理解していた。魔界の門という大体の見当がついていても、そこにいない可能性がある。そもそも、それがどこにあるかさえも知らないのだ。

 だからこそ、協力者が必要だった。

「猟師の一家が森に住んでる。事情を話して協力を得よう」

「猟師の一家、ねぇ……」

 赤髪の言わんとしている事は把握していたが、あえてこの場で指摘はしなかった。それよりも、今はもう一人が問題だった。

「おい。そこに姉ちゃんがおるのか」

 少年の存在である。邪魔をしないなら無視するとは決めたが、昨晩邪魔をしてくれた以上、放っておくわけにはいかない。

「かもな。だが、お前はだめだ」

「なんでだ!」

 無言でついてきた奴が何を言うか。昨晩より落ち着いたとはいえ、やはり根っこは変わっていない。

 ならば、いかに自分が邪魔な存在か理解させる必要があった。

「これを食ったら裏手に来い。準備はこちらで整えておく」

「なにを勝手に決めとるんだ、おい!」

「嫌ならそれで結構。ただし、次お前を見つけたら撃ち殺すことにする。よろしいかな」

 これ以上、敵を増やしたら仇を討つどころではなくなってしまう。苛立ちを抑え、少年は自分の前に置かれた皿に手をつけた。

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