第17話
草の根を分けて探す、とはまさにこの事だろう。ベンは片っ端から町の住民に聞き込みを続けた。
一言、なにかを話してくれれば上等。無視が基本。また、声を掛けられるとなぜか強盗を働こうとした者は少ないながらもいた。
もちろん、実行できた者はいなかったが。
「死んでろクズが!」
赤髪の右ストレートが泥酔した男の顎に入った。
「ナイフじゃないだけありがたく思え」
酔っ払いから奪った刃物を川に投げ捨てると、赤髪はベンの方を見た。
「こりゃ、外れじゃないのか?」
ベンは唸った。情報が得られないとなると、件の顔役を頼るしかなくなるが、事情通二人から止められる程度には危険な人物だ。馬鹿馬鹿しい理由で危険に飛び込む気にはなれない。
しかし、このままではらちが開かない。
「行くか」
物事は正面から挑まなければダメだ。時間を無駄にした事を悔いながら、三人は坂を登り始めた。
すると、進路を塞ぐように三人の男が建物の陰から現れた。全員が瞬時に察した。これは敵だ。
「例のなんとか、って兄弟。家に近付いたら撃ってくるって話だったよな?」
「このくらい誤差でしょう? 彼らからしてみれば、この町は玄関前みたいなものです」
ホルスターからは抜かずとも、聞き手の意識がそれぞれのホルスターに向く。
「おい、この辺りで嗅ぎ回ってるよそ者ってのは、おたくらか?」
男達の一人がそう尋ねた。直後、影がうごめく。
「さあな」
「おい!」麦わら帽子の男が笑った。「どっちだっていいだろ?」
それが開戦の合図だった。ベンと赤髪は瞬時にホルスターから獲物を抜くと、民家の屋根目掛けて発砲した。二つの肉塊が屋根を転がり、地面に叩きつけられる。
「くそっ、気付いてやがった!」
ジンは抜いたリボルバーを陽動役三人に向けた。飾り気のないスチールフレームと木製グリップのリボルバーだったが、最新のダブルアクションだ。驚異的な速射性能で六発の弾丸を発射した。
一人が弾を受け、もんどり打って倒れる。残りは形勢不利と悟って逃げ出した。
「倒したの一人かよ、下手糞! 雰囲気一流!」
「いやぁ、拳銃の長距離射撃は苦手でして」
シリンダーに弾を込めつつ、ジンは笑った。笑い事ではない。
「で、どうします? これでもまだアルミロン兄弟と話しますか」
「対話は難しそうだ。出直そう」
ここまでされて話してくれるとは思えない。惜しいが、ここは一旦退かなければ。
ベンと赤髪は口笛を吹いた。馬はこの音を聞けばすぐやって来るように調教している。
「ジン、お前はどうすんだ?」
「まだ仕事があるので、ここで失礼します」
弾を込め終えたジンは拳銃を納め、坂を登り始める。
「おい」ベンがその背に呼び掛けた。「なぜ助けた?」
ジンは振り返らず、足も止めなかった。しかし、二人に聞こえる声でハッキリと答えた。
「あなた方が目立ってくれたら、アルミロン兄弟の注意をひけると思いましてね」
片手を挙げて軽く振る。
「また会いましょう」
まったくもって、奇妙な男だ。ベンと赤髪が珍しく顔を見合わせると、その間に彼は姿を消していた。
ちょうどその時、二人の馬が蹄を鳴らしながら駆け寄ってきた。
「あいつの事は放っておこう。行こうぜ」
どうも煮えきらないところがあるが、赤髪の言う通りだった。
ベンは愛馬にまたがると、馬の腹を蹴った。
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