第10話
ベンは不意に気配を感じて振り返った。
そこにいたのは貧相な少年。この町の住民ではなく、外の住民だろう。
武器を持たず、敵意も感じられず。何をするまでもなく踵を返して立ち去った。そんなのはどうでもいい。いまは鞄を取り返すのが先決だ。
茫然と見上げている少年の背後に立つと、鞄を取り上げた。意外にも、彼はまったく抵抗しなかった。
「助かったぞ」
「じゃ、キル・カーチスの賞金は九:一にしろ」
なにを言い出すのかと思えば。ベンは賞金稼ぎではない。ゆえに、誰が賞金を手にしようがどうでもよかった。
「好きにしろ。元からそんなものに興味はない」
「なんだよ、恩売って損したぜ」
赤髪は馬車から飛び降りると、車輪を蹴飛ばして御者に出していいと合図を送った。
「問題は解決だな? 次はこいつの処遇を決めようじゃないか」
レグノは複数の軍閥が割拠する無政府状態の国家である。しかし、無秩序ではない。各軍閥は各々のルールを定め、後方では文明社会が維持されている。もちろん、軍閥の定めた法秩序を保とうとする法執行機関も存在している。
プーアポルトは色々と特殊な町だが、例外ではない。
「とりあえず、保安官事務所に突き出そうじゃないか」
「いいだろう」
ベンが少年の腕を取り、赤髪は後ろで銃口を突きつける。三人はこの状態で通りに出た。
「おい」不意に赤髪が尋ねた。「お前、自分でこいつを止められただろ」
ベンは赤髪を一瞥したが、すぐに視線を正面に戻した。
「脳天ぶち抜くなり、足を撃つなり出来ただろ?」
「荷物を傷付けたくなかった」
「ふぅん」赤髪は興味深げに鼻を鳴らした。「そういう事にしておいてやるよ」
通りを歩く通行人は三人を見ても、すぐに興味を失った。喧嘩を売る相手を間違えて返り討ちに遭う貧民は、レグノでは珍しくない光景だ。道往く人々がこの集団をコソ泥がヘマをした結果だと判断するのに、そう時間は要さなかった。
「ところで、こいつがこの先どうなるか知ってるか?」
またしても、赤髪が尋ねた。
「さあな」
「
軍閥によって政治が行われているレグノの文明社会は、他国の文明社会と比べて荒っぽい面が多い。
刑務所は戦闘で捕縛された軍閥の重要人物を収監するための施設であり、通常の犯罪者が収容される事はない。そのため、軽微な犯罪者は銃殺してまとめて火葬。重罪犯は尋問し、縛り首のうえで見せしめに晒す。
一度犯罪者達が徒党を組んで反乱を起こせば、他勢力が攻め込む隙となる。各勢力がその事態を恐れているレグノでは、犯罪者を生かしてよそへ送るのは個人規模の汚職と呼べるほどかなり稀な例である。
「三日は無罪を証明出来る貴重な時間というわけか」
「そういうこった」
「そうか」
ベンは静かに返答した。
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