第2夜 終末の週末
少し痛む頭に手を当てながら、布団から起き上がった。昔よく遊んだゲームソフトのリメイクが25年ぶりに出て、つい徹夜でハマってしまいもう若くはないおっさんの睡眠時間を削ったような。そんな感じだ。
(あいつら、手加減ってものを知らないな)
昨夜は秋葉原の街を目一杯使っての「魔女狩りゲーム」。もちろん、夢の中での。まるでアクション映画のような追う者、追われる者の二転三転する攻防に。やりたい放題の無茶苦茶。現実はもちろん、市販のゲームソフトでも大人の事情があるから、あんなことはできないだろう。そういうご時世だ。
多勢に無勢の中、魔女チームは奮闘したが。最後は四方八方から襲い来るハンターに袋叩きにされて全滅した。私もアバターの見た目が災いして、ここには書けないような趣味の悪い見せしめを受けた。
唯一、救いがあったのは相方を逃がした後だったことか。彼女…といっても中の人は分からないが、ともかく彼女は大の男嫌いだ。これ以上トラウマを増やすような目にだけは絶対あわせたくなかった。
子供時代、いじめられたときのことを思い出す。あのときはただ泣き叫ぶだけだったが、昨夜のは自分から進んで立ち向かった困難だ。自分たちがオトリになることで他の罪なき人々が悪夢に引き込まれるのを防げたなら、今は十分。
あのゲームの危険性を警告するため…といっても、ほとんど無意味だろうし。物好きは返って飛び込んで来るかと思いつつも。ささやかな抵抗として、私は「イーノ」のペンネームでこの小説を書いている。
もしあなたが、夢の中でわけの分からない連中に襲われたり。奇妙な仮面を送り付けられたなら、注意してほしい。それは「悪夢のゲーム」への招待だ。
これはどこのオンラインショップでも買えないし、広告も一切出してない。にも関わらず、世界的に広まってるらしい。特に日本で、もうひとつの感染拡大と呼べるほど。
けれども、ニュースでは一切報じられない。いつもの変わり映えしない「今日の感染者は何人」「週末はおうちにいてください」「休業補償が無いから、店を営業せざるを得ない」。そんな退屈な報道があるだけだ。夢なんだから、誰もまともに信じなくて当然だが。
しかしこれだけは確かだ。他のプレイヤーたちも間違いなく、同じ夢を見ている。そしてこのゲームの運営者は、悪しき意図を持って人々の分断を煽っている。ゲーム中で狩りの対象になる「病魔を操る魔女」は、夢の中にいる他の人なのだから。
奴らの狙いは、地球人から「悪夢」の力を搾取し、軍事目的に利用すること。地球自体は格好の「植民地」であるため、表立った侵略は行わない。そうするまでもなく地球人はすでに、ディストピア映画の中で培養槽に浮かべられて偽りの夢を見せられてる生体電池だ。
新型ウイルスの猛威は、この世界に元からあった兆候を極度にクローズアップして私たちに見せた。人のエゴや保身、世界の歪み、困難の中のわずかな光も。
動き出した「終末」は、もはや止まらない。その先に待つのは、どんな新世界か。
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