14 ユウコ/結子

「結子ごめん、勝手にノボル、夕飯に誘っちゃった」

いつもは誘う前に聞いてくるのに、珍しい。やっぱり昨日のことが原因なんじゃないか。 心配。でも、沙耶は何も覚えていないようだし、いたずらに思い出させるようなことはしたくない。私から話すのはよそう。学校から帰ってきてから沙耶の様子が少しおかしいようだけれど、ノボル君に会えば落ち着くかもしれない。

「わかった」

「ほんとにごめんね?」

申し訳なさそうに謝ってくる。私は全然かまわないのに、怒ってると思ったのかな。

「ノボル君なら大歓迎だよ、お家の中が明るくなるもの。おいしいご飯一緒に作って待ってよう」

私を置いて、ふたりでどこかへ行ってしまわなければいい。沙耶に抱きつかれる。猫みたいに柔らかくて頼りない身体が愛おしい。

チャイムが鳴る。沙耶が駆け寄って玄関を開ける。一瞬不安になったけれど、そこに立っていたのはやっぱりノボル君で、ほっとする。部屋の中の色が少し明るくなる。手をつないだふたりは仲良しの兄妹みたいで愛らしい。雨の寂しい雰囲気もふたりに邪魔されて 家の中には入ってこない。

「ふたりとも手洗ってきてね」

支度をしながら声をかけると、ふたりは手をつないだまま洗面台の方へ向かう。私はキッチンへ戻り、ベーコンを切ってフライパンで焦げ目をつける。くし型に切ったゆで卵とミニトマト、クルトンと、沙耶が様々な大きさにちぎったレタスがたくさん入った透明なボールに、ベーコン、パルミジャーノチーズのスライスとスーパーで買ったドレッシングを加えて和える。出来上がったサラダを木でできた小さなボールによそってテーブルに運ぶ。ふたりがまだ戻ってこないので、炊飯器を開けて甘く優しい湯気をあげる白いご飯をお皿によそう。沙耶も私もよく落として割ってしまうので、同じデザインのお皿が無い。白いご飯にカレーをかける。一見するとお肉とじゃがいもしか入っていないように見えるけど、鍋いっぱいのカレーの中には人参もたまねぎもまるまる一個ずつ入っている。テーブルにカレーのお皿を並べ終えてもふたりが戻って来ない。急にひとり、ほかの世界に取り残されたみたいな気持ちになる。自分ひとりで並べた三人分の料理が静けさを誇張している。

「いつまで洗ってるのー」

思い切って声をかける。私の声が壁に吸い込まれて誰にも届かなかったらどうしよう。本当に一人ぼっちだったらどうしよう。ぱたぱたと音を立てて戻ってきた沙耶とノボル君が私の不安を吹き飛ばしてくれた。

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