その4

 仰向けに寝たきりのセレナは微かに開いた目蓋の中で、瞳を左右に揺らしている。その瞳からは不安の色を容易に感じ取れた。


「安心して。ここには君を傷つける人間はいないよ」


 ダンが優しく語りかける。

 セレナは何か話そうと口を微かに開くが、ダンがそれを制した。


「無理に話さなくてもいい。ゆっくり横になっていればいいんだ。さ、喉が渇いているでしょう?」


 ダンがセレナの肩を抱き、水を飲ませてやる。


「ケホッ、ケホッ──」


 勢いよく水を啜ったセレナは咳き込んだ。


「慌てなくていい。ゆっくりでいいんだよ」


 セレナはその言葉に従って、ゆっくりと水を飲んだ。


「さ、今はもう一眠りするといいよ。もう少し元気になったらご飯を食べようね」


 少女の瞳にはまだ不安の色が強い。

 あれだけの事があったのだ、そう簡単に人に心は許せないのだろう。

 ダンもそれは分かっているに違いない。

 しかし彼は焦らず、ゆっくりと優しい言葉を紡ぎ続ける。


「こんなに大勢知らない人がいたんしゃ落ち着かないよね」


 ダンがリンドウ達に目配せする。

 それを受けてリンドウ達は部屋を後にする。

 ただ、オリガだけは部屋から出るのを躊躇っていた。


「なぁダンよ。私にも手伝えることはないものかな?」


「・・・・・・この子も女性の方が何かと接しやすいでしょう。身の回りのお世話をお願いできますか?」


「喜んで務めさせてもらおう」


 そう言ってオリガはベッドの側に歩み寄り、膝をついた。


「はじめまして。私はオリガ、彼はダンと言うんだ。いきなり知らない場所で知らない人間たちに囲まれて驚いたろう。難しいかもしれないけれど、どうか安心して欲しい。私達は君を守る為にここにいるんだ」


 そう言ってオリガはセレナの手をそっと握った。

 手に触れられたセレナは一瞬身体を震わせた後、戸惑うように手を握り返した。

 それは極めて軽い握手だったが、オリガはセレナが少しでも自分を信じてくれたのが嬉しかった。


 まもなくセレナは再び眠りに落ちた。

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