第27話 魔術師の金庫を破れ!
部屋は先ほどと何ら変わらなかった。このままあの扉を抜けても結果は同じだろう。
「で、どうするつもりだ?」
「実はな、俺のいた世界ではさっき話してた空間転移の技術が実用化されてるんだよ。詳しい原理は考えたこともないけど、レベッカの言ってた魔法の理論と通じる部分はあると思うんだ」
「それで?」
「ほんの少しの
「棘のある言い方だな」
「当然だ」
(なんたって俺がこの世界に来たのも、ワープゲートが事故を起こしたせいだからな)
「とにかく、ここを作ったやつが空間を歪ませることで入口を繋げてループさせてるなら、ちょいとこの空間の法則を崩してやりゃあループが解けるはずだ」
「簡単に言うが、どうやって法則を崩す気だ?」
「こいつを使う」
そう言ってリンドウが取り出したのは、ダニアの王宮で鎧の門番を倒した時に使った円盤だった。
「なんだそれは?」
「超局地的に引力を発生させる機械だ」
「何を言っているのか皆目分らんが、それを使うとどうなる」
「いいか、空間をこねくりまわして好きなように繋げるなんて、相当緻密なバランスで成り立ってるはずだ。だからこんなノイズみたいな些細な干渉でも--」
「分かった。完全に理解したからとにかくやってくれ」
オリガはリンドウの言葉を理解するのをあきらめた。
「じゃあやるぞ」
リンドウは装置を今、入ってきた扉に取り付けた。もう一つの扉は真正面に位置している。
「よし、離れてろ」
二人は扉から離れ、部屋の中央に立った。
「いくぜ」
リンドウがベルトに下げたスイッチを操作する。と、ブゥンという低い音を響かせながら、装置が展開した。
「これだけか?」
「ああ。これだけだ。ドアを開けてみな」
言われた通りオリガは対面の扉を開ける。
そして呆れたようにリンドウの方へ振り向いた。
「おい、何も変わらないじゃないか」
「変だな。これでいけると思ったのに・・・・・・。引力が弱いのかな?」
そう言ってリンドウはスイッチを操作する。装置がもう一度低い音を鳴らすと、二人の体は装置の方へ引っ張られ始めた。
「おい! 何をしている!?」
「きっと力が足りてねえんだ。もっと強い引力を発生させてみるのさ」
そう言う間にも二人はズルズルと引っ張られている。
扉の向こうの景色は相変わらず先程の通りのままである。
「おい! やめろ! 何も変化はないぞ」
踏ん張りながらオリガが怒鳴る。
「まだ足りねえのか」
リンドウは聞く耳を持たずに更に引力を強めた。
結果、二人は宙に浮き、踏ん張る間も無く装置に引き寄せられ、扉に叩きつけられた。
「ぐぇっ」
「クッ」
リンドウがうつ伏せに装置に張り付き、その上からオリガが仰向けに重なっている。背中を合わせる形だ。
「ば、馬鹿者・・・・・・! 早く、その装置を切れ!」
指すら動かせない程の拘束の中、オリガが声を振り絞る。
「ち、ちくしょう。勘が外れたか・・・・・・」
リンドウが装置を停止させようとスイッチを握ったその時、オリガが叫んだ。
「待て!」
「な、なんだよ。早く電源を切らせてくれ。し、死にそうだ・・・・・・」
強烈な引力に囚われた上、他人の体重まで加わったリンドウはグッタリしていた。が、
「ダメだ」
無慈悲にもその懇願は却下されてしまった。
オリガの目には、先ほどまで見えていた扉の先が変わりつつあるのが見えていた。
景色が歪み、先ほどまでの通りに混じって、楼閣のシルエットが見えるのだ。
「リンドウ! もっと強く出来ないのか!?」
「冗談じゃねえ! 俺が口から臓物ぶちまけふのを見たいのか!?」
「やれるならやれ! お前の勘は当たっているぞ!」
「なにっ、じゃあ・・・・・・!?」
「ああ、だがまだ不完全だ!」
「ちっ、仕方ねえなぁ!」
リンドウは更に引力を強く操作した。
瞬間、オリガの目には鮮明に楼閣が見られた。
「よしっ! 繋がったぞ! どうやったら出口までいけるんだ!?」
「考えてなかったのかよ!」
リンドウは眼球が飛び出しそうな圧力の中、スイッチを操作する。
「は、反転!」
三度、ブゥンと低い音が響き、二人を扉の向こうへ弾き飛ばした。
オリガはすかさず受け身を取り着地したが、リンドウはゴロゴロと地面を転がりながら停止した。
「痛てててて、えらい目にあった。帰りは何があっても屋根を通って帰るからな」
リンドウはアンカーを使って装置を回収しつつボヤいた。
「機嫌をなおせ。何はともあれたどり着いたんだ」
オリガは体についた土を払いながらなだめた。
それから二人はロータリーを歩き、並木に隠れながら、楼閣の正面へ回った。
正門は石造のアーチであったが、装飾はなく質素なものであった。大きさは人が五、六人一列で並べる程度である。
見張りが二人立っている。
『どうやら上手くいったようですわね』
結界を抜け通信が復旧したようだ。レベッカの声が聞こえた。
「まだスタートラインに立っただけさ」
「そうだ。あの門番は問題にならんが、塔の中がどうなっているかは全く分からないからな」
「ま、とにかく行くしかねえさ」
二人は、声も掛け合わず、目も合わせなかったが、同時に立ち上がって歩き出した。
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